「医療崩壊の真実」渡辺さちこ、アキよしかわ著
新型コロナウイルスが猛威を振るう欧米諸国の様子がテレビで報道され、病室ではなく廊下でストレッチャーに寝かされている患者の姿を目の当たりにした日本人の脳裏には、「医療崩壊とはあのような病床不足の状況を指すのだ」と焼き付けられたことだろう。しかし、日本の病院の状況を客観的なデータに基づいて見てみると、欧米のそれとはだいぶ異なる医療崩壊の状況が見えてくる。
本書では、コロナ以前からすでに始まっており、コロナ以降に向けて解決していかなければならない、日本の医療提供体制の問題について明らかにしている。
日本の病院の病床数は、全国で152万床を超える。OECDの加盟国と比較すると、人口1000人当たりの病床数は日本が13・1と突出して多く、加盟国平均の3倍近くだ。それではなぜ、欧米と比較すると新型コロナウイルスの感染者数が少ない日本で、医療崩壊という事態が起こるのか。
日本では、急患を受け入れる急性期病院が非常に多い。OECD加盟国平均の2・2倍だ。一見、手厚い治療が受けられそうな体制に思えるが、そこには集中治療の知識と技術を持った専門医が不可欠だ。現在、日本の集中治療専門医は全国でわずか1955人。急性期病院の多さに対して圧倒的に足りていない。東京都内でも、集中治療専門医がたった1人しかいない病院は少なくない。新型コロナウイルスの場合、1人の集中治療専門医で対応できる患者数に限りがあるのだ。
今後は、各病院の診療圏の特性を分析し、欧米のように急性期病院の集約を図りながら人員確保を行っていく必要があると本書。コロナ禍で浮き彫りになった課題から、学ばなければならない。
(エムディエヌコーポレーション 1500円+税)