「祭 Matsuri」小川直之監修
日本には約8万社の神社があり、大きな神社ではいくつもの例祭があるので、行われる祭りの数は10万を優に超える。さらに神仏に供物を「たてまつる」を語源とする「まつり」の原義から考えると、約7万7000ある寺院の法要も「まつり」であり、家庭で行われる正月やお盆などの行事もこの範疇に入る。まさに日本は「祭り」の国なのである。
そんな日本各地のさまざまな祭りを紹介するビジュアルガイド。
祭りは、基本的には潔斎である「物忌み」から始まり、その場に神を迎える「神迎え」、迎えた神に供物し、祭る者から神への報告や祈願、神から人への宣託へと続く。祈願や宣託にはいろいろな形式があり、神の力がなんらかの行為で表現されたり、神の地域への巡幸、あるいは御旅所や水辺などへの神幸が行われる。占いや儀礼、芸能で神の力を人々に分与することもある。その後に神と祭り人たちの共食である「直会」が行われ、この時に神を楽しませる芸能の奉納もあり、祭り人たちが日常に戻るための「物忌み」で終わる。
各地の祭りは、長い歴史の中でこのような構成のいずれかの場面が強調されたり、肥大化することで、熱狂的な時空を生み出し、他とは異なる特別な様式をつくり出したと思われる。
例えば「火祭り」。「火」には神仏に明かりを捧げて祈ること、火とその煙で神仏を招き送ること、清らかな火の力で災厄をはらうことの3つの意味があるという。
熊野那智大社の夏の例大祭「那智の扇祭り」は、「那智の火祭り」とも呼ばれ、祭りのクライマックスに12体の扇神輿が12本の大たいまつの燃え上がる炎に照らされながら「渡御」する神事である。
また北海道積丹半島の北東地域にある琴平、恵比須、美国の各神社では、海の安全と豊漁を祈願する祭りの中で天狗面の猿田彦や神輿が燃え盛る炎の中を突き抜ける「天狗の火渡り」と呼ばれる神事がある。
これは町内を巡幸して災厄や穢れを負った天狗や神輿を宮入り前に火によってはらい清めるための神事だという。
社殿がなかった時代の祭りは、依代や神籬(=臨時の神座)で神を表現し、これらの移動が渡御であった。神輿は、その際の乗り物である輿を敬った表現で、10世紀半ばには、現在につながる形式が出来上がっていた。
石川県能登町に鎮座する宇出津八坂神社の祭礼「あばれ祭」の見どころのひとつは、火や水の中を暴れまわる神輿。
このように神輿を大きく揺するのは神威を高める行為であり、海や川に入るのは鎮座する神の力の更新のためだという。
こうした「火」や「神輿」が見どころの祭りの他にも、京都・八坂神社の「祇園祭」をはじめ、長野県の「野沢温泉の道祖神祭り」や、愛知県奥三河地方に伝承される「花祭」など、それぞれ「曳山」や「小正月行事」「舞う」などのテーマごとに全国の70近くの祭りを迫力ある写真と解説で紹介する。
多くの祭りが2年続けて中止に追い込まれてきたが、ページをめくれば、あの懐かしい熱気が伝わってくる。
(パイ インターナショナル 2970円)