「地形と地理でわかる 戦国武将と名勝負・名城の謎」渡邊大門編著/宝島社

公開日: 更新日:

 関ケ原の戦い、羽柴秀吉と明智光秀の山崎の合戦、川中島の合戦など、戦国時代の戦には「地名」が大きな意味合いを持つ。本書はそれらの舞台がいかに選ばれたかということを歴史的考証とともに記す。

 歴史、特に戦国時代好きからすると「なぜこの場所が重要だったのか?」という疑問は常にある。そこを解説していくのである。項目を挙げると「それ知りたい!」となるだろう。

◆なぜ、鉄砲は種子島に伝わったのか
◆なぜ、川中島で武田と上杉が戦ったのか
◆なぜ、桶狭間で信長と今川義元は戦ったのか
◆なぜ、秀吉と光秀は山崎で戦ったのか
◆なぜ、関ケ原合戦で西軍は大垣城を拠点にしたのか

 こうした歴史の「場所」について55の項目で解説している。皆さんも経験があるかもしれない。たとえば、東海道新幹線では「関ケ原で雪がすごいため、徐行運転をします」といったアナウンスが流れることがある。となると、「ここで戦った武将たちは一体どのような状況だったのだろうか……」と。サントリーの山崎蒸溜所でウイスキーを飲もうとするため、駅に降り立つと「ここで羽柴秀吉と明智光秀が戦ったんだな……」などと思う。

 こうした形で我々は戦国時代を含めた歴史と現在の一致点を見いだし、感慨を深くするが、本書は戦国武将がその場所を選んだ理由をつぶさに解説する。つまり、歴史書でありつつも、観光ガイドブックでもあるという実に稀有な本なのである。

 現在、私は佐賀県唐津市在住だが、唐津といえば秀吉の朝鮮出兵で知られる「名護屋城」の地元である。こうした記述がある。

〈なぜ、秀吉は名護屋を拠点として選定したのだろうか。名護屋は玄界灘を望む海上交通の要衝であり、松浦党が中国や朝鮮半島との交易を行うため、交易拠点の一つとしていた。それゆえ港の確保が容易であり、大規模な軍勢を輸送する船舶も停泊可能だった〉

 歴史好きであれば誰もが「表面だけ」知っているであろう合戦についての疑問に、著者は合理的な理由をあげて、「だからこの場所が選ばれたのだ」と解説をする。

 駿府城を本拠としていた徳川家康がなぜ当地を本拠にしたのかに加え、後には江戸に拠点を移す決断をしたのか、といったことも含め、歴史の点を線でつなぐ作業も行っており、豆知識や飲み屋談議において有用な本になり得るだろう。あと、新書なのにカラーなのも良い。 ★★半(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘