「鉄道会社はどう生き残るか」佐藤信之著/PHPビジネス新書
国鉄の民営化以降、多くのローカル線が廃線の憂き目をみてきた。現在も、自動車利用の拡大や地方の人口減に伴い、国土交通省はさらなる廃線に向けて動き出している。ただ、ローカル線は、地方経済生き残りのカギであるだけでなく、地球温暖化防止に貢献し、自動車を運転できない学生や高齢者の足として、必要不可欠のインフラになっている。
本書は、交通政策の専門家である著者が、鉄道事業の現状と問題点、そして未来への生き残り策を分かりやすく論じた本だ。もちろん、学術的な本だから、エンターテインメントの要素は少ないのだが、その分、正確で、地に足のついた議論が展開されている。なかでも私が注目したのは、欧州の鉄道政策との比較だ。
鉄道事業は、儲からない産業なのに、日本は基本的に独立採算だ。本書が「小林一三モデル」と呼ぶ、周辺の宅地開発事業や駅周辺の商業施設経営などの副業で、本業の赤字を埋める方式が定着してきたからだ。ただ、宅地開発は、永遠には続かないし、副業にも限界がある。もちろん、鉄道事業にはいまなお新線開発の明るい話題も存在する。ただ、それは大都市圏に限られている。それでは、ローカル線はどうしたらよいのか。
私が、本書のなかで、素晴らしいなと感じたのは、欧州の鉄道事業だ。上下分離方式といって、線路は国が保有して、メンテナンスを請け負う一方、民間の鉄道会社は線路を借りて、輸送サービスを担う。国は、収益性の高い大都市部の線路は高く貸して、地方部は安く貸し出す。それでもローカル線の経営が成り立たない場合は、国がサービスを買い上げる。つまり事実上の補助金を与えるのだ。
日本でも、地方自治体が線路を保有する上下分離方式は、一部実施されているが、国レベルでの実施例はない。
私は、どういう形であれ、地方の鉄道事業に補助金を入れないと、全国の鉄道網を維持するのは不可能だと思うが、それは、コンセンサスになっていない。鉄道会社の自助努力で何とかなると国民が思い込んでいるからだろう。だから、多くの国民が本書を読んで、危機感を共有して欲しいのだ。 ★★半(選者・森永卓郎)