非暴力という行動
「市民的抵抗」エリカ・チェノウェス著、小林綾子訳
非暴力は何もしない、抵抗しないというだけではない。非暴力を貫くには気力と行動力が必要だ。
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「市民的抵抗」エリカ・チェノウェス著、小林綾子訳
米ハーバード大のケネディスクールといえば故ケネディ大統領を記念した行政研究の専門大学院。ケネディは、「平和部隊」のように武器を持たず、知識や技術を武器として諸外国にアメリカの友好国をつくろうという安全保障観を持っていた政治家だった。
本書の著者はそのケネディスクールで教壇に立つ国際関係の専門家。国家権力に対抗して「市民的抵抗」で社会を改革し、戦争ではなく平和を構築するという研究についてのリーダー的存在だ。
著者によれば革命運動の絶頂期に、総人口の3.5%がその運動に積極的に参加している場合、その運動は成功するという。著者が「3.5%ルール」として広めたこの仮説は世界中で受け入れられ、環境保護団体「エクステンション・リベリオン」(絶滅への反逆)や韓国のろうそく運動などで大きな指針となった。
とはいえ、このルールは必ずそうなることを保証しない。過去の例をもとにした仮説が未来にもそのまま適用できるとは限らないからだ。
特にSNSなどが短時間に「いいね」を集めることのなかった時代の「3.5%」は一般社会の広範な支持があったことを推測させる。SNS時代にも同じことをいえるかは検証の必要があるだろう。 (白水社 3080円)
「非暴力を実践するために」ジーン・シャープ著、谷口真紀訳
「非暴力を実践するために」ジーン・シャープ著、谷口真紀訳
ジーン・シャープといえば2018年に90歳で亡くなったアメリカの政治学者で非暴力思想のメンター(導師)。近年は日本でも彼の知名度が上がり、ミャンマーの民主化運動の後押しをした主著「独裁体制から民主主義へ」が訳出されて彼の思想は広く知られるようになってきた。
彼の提唱する非暴力は、単に物理的な力に頼らないというだけではない。肝心なのは「否認」。権力の思惑に協力するのを拒むということだ。非暴力は弱々しく、されるがままにすることではない。「暴力を使わずして相手の権力を制御し、自分たちの勢力を発揮する方法」が非暴力なのだ。
巻末には訳者によるくわしい解題がついているから、ここから読み始めるのも一手だろう。 (彩流社 2750円)
「『争い』入門」ニキー・ウォーカー著、高月園子訳
「『争い』入門」ニキー・ウォーカー著、高月園子訳
児童向けの書籍の執筆や編集で実績があるというカナダ在住の著者。その人がなぜ争い事の本を? いや、むしろ現代は子どもから大人までが戦争や紛争のしくみを知り、どうやったら平和を実現できるかを知るべきだ、という強い決意がにじむのが本書だ。
同じ仲間のあつまる集団に属するのは気持ちのいいことだが、それはえてして「わたしたち」VS「かれら」という線引きになり、時として対立の火種になったりもする。
いざ、もめ事が起こったら、当事者だけでなく、周囲が調停や仲裁をしてやらないといけない。それは学校のクラスでも国際間の外交でも同じだ。
「なぜ人を殺しちゃいけないの?」などと子どもにいきなり聞かれてあわてないために、親たちが読むべき本でもある。 (亜紀書房 1760円)