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「ブレイン・プラスティシティー」エリコ・ロウ著

 脳科学はお茶の間でもすっかりおなじみだが、実は中身はよく知らないという人がほとんどなのでは?

  ◇  ◇  ◇

「ブレイン・プラスティシティー」エリコ・ロウ著

 舌を噛みそうな書名だが、副題が「自らを変える脳の力」。プラスティシティーとは「可塑性」つまり形を自在に変えられること。人間の脳も使い方ひとつで自由に変わるというわけだ。

 たとえば麻痺のある側をあえて使い続けることで機能回復をめざすCI療法を使った生まれつき脳性麻痺とされた男児が、4歳からの地道な訓練で8歳までには障害を自覚しないまでになり、やがて健常者の野球チームで選抜メンバーになるまでになったという。

 逆に社会的に孤立し、孤独の中に暮らしている人間の脳は、感情の処理にかかわる海馬や扁桃体の灰白質が小さい傾向にあるとの観察報告もある。

 米シアトル在住のジャーナリストでウェルネストレーナーの著者はたくさんの取材で得られた実例を豊富に紹介。脳を効率よく使うための「2+5+7の時間割」や「効率を高める0、1、2の戦略」などを披露している。

(プレジデント社 1980円)

「モチベーション脳」大黒達也著

 脳科学はお茶の間でもすっかりおなじみだが、実は中身はよく知らないという人がほとんどなのでは?



「モチベーション脳」大黒達也著

 音楽が癒やしや子どもの情操教育に役立つことは知られている。著者は東大で「音楽の脳神経科学」を研究する。

 音楽の歴史は調和のとれた音楽表現が追求されたバロック時代のあと、不確実だが意外性の魅力にめざめたロマン派音楽の時代に移る。著者はその渦中にいたベートーベンのピアノソナタ全曲を脳の統計学習の計算モデルで解析。すると後期になるにつれてバロックから離れる不確実性が増したという。決まりきったことが繰り返されると人は飽きる。芸術の歴史も脳の働きと同じで、飽きないほうへ進化するのだ。

 多数の脳科学本の中でも本書がいいのは種々の理論や実験をていねいにわかりやすく説明しているとこ。たとえばモチベーションを上げるための第2章では、有名なマズローの「欲求段階説」から経営学者マグレガーの経営組織論(X理論・Y理論)につなぎ、強制や命令のXではなくチャンスと責任で人を動かすY理論によるモチベーションアップが望ましいと説明する。自己啓発本もどきと一線を画す「やる気が起きるメカニズム」(副題)の好解説。

(NHK出版 968円)

「スマホはどこまで脳を壊すか」 榊浩平著 川島隆太監修

「スマホはどこまで脳を壊すか」 榊浩平著 川島隆太監修

 スマホ普及の初期は電磁波警戒論などもあったが、いまやスマホ批判はすっかり下火。と思ったら、東北大の「加齢医学研究所」の師弟コンビが鳴らす警鐘本が出た。

 同研究所が仙台市教委の「学習意欲」に関する調査で「スマホは学力に悪影響」という結果を得たのが10年前。以来、スマホの使用時間を制限する方策を社会に訴えてきた。思考など脳の高度な機能をつかさどる前頭前野は小学校高学年から20歳ごろまでに徐々に発達する。その時期をスマホ漬けで過ごすのは害。それが証拠にスマホの1日あたり使用時間が「1時間未満」を頂点に、長時間になるほど成績が明らかに下がったのだ。

 本書は前半で害を科学的に説明し、後半では使用を上手にコントロールする方法を提案する。

 自動車ナビを使わず紙製のマップで目的地に行くという著者自身の実体験の話も秀逸。

(朝日新聞出版 935円)

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