野球レジェンド
「酔いどれの鉄腕。」佐藤道郎著
WBCの熱狂も手伝って、今年のプロ野球は開幕から盛り上がっている。レジェンド話にも花が咲く。
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「酔いどれの鉄腕。」佐藤道郎著
ホークスといえば福岡の球団だが、かつては大阪で最も愛されたチーム。阪神をしのぎ、巨人と日本シリーズで「宿命のライバル」だった。本書はその南海で野村克也が捕手と監督を兼任した初年度に入団し、野村南海の全盛期に貢献した名投手の回想録。
1年目にリリーフでいきなり18勝の新人王、最優秀防御率と最多セーブが2度ずつ。著者はリリーフ投手から先発に転向し、引退後もロッテ、中日、近鉄のコーチ、さらに中日で二軍監督としても若手の育成に尽力した。
読みどころはさまざまな仲間たちのエピソードだ。「ぼやきの野村」も最初はトークがうまくなかったが、投手の美点をうまく引き出す頭脳派。先ごろ亡くなった門田博光は著者と同年入団の同僚で「あんなにバッティングを突き詰めて考えたやつはいない」とつづる。江本孟紀、江夏豊、落合博満らそうそうたる名選手たちがきら星のごとく出てくる一方、人間模様を語るエピソードもいい。
野村家に夫婦で遊びに行ったとき、著者が妻に水割り作ってと頼んだところ、サッチー夫人がピシャリと一言、「そんなの自分でやりなさい。男の強さはね、女性に優しくすることなのよ」。
行間から伝わる豪快で繊細な「野球と酒を愛した鷹のクローザーの回顧録」(副題)である。 (ベースボール・マガジン社 1760円)
「証言 昭和平成プロ野球」二宮清純著
「証言 昭和平成プロ野球」二宮清純著
レジェンド話を聞き出すのはシロウトでは無理。往時の試合を細部まで記憶するベテランが聞いて初めて話も面白くなるのだ。
その点、この著者なら安心。「フォークボールの神様」杉下茂、巨人V9戦士の城之内と柴田、広島カープの誕生から初優勝までを支えた長谷部稔、古葉竹識、大下剛史、安仁屋宗八らに直接インタビューする一方、400勝投手・金田正一(故人)については関係者の談話をつなぐ。選手生命は4年と短かったが、さわやかな名解説ぶりでお茶の間を沸かせた佐々木信也にたっぷり話を聞いているのもうれしい。
終章は新人時代にデッドボールで死線をさまよった田淵幸一、骨髄異形成症候群という病気に苦労した名コーチの鈴木康友が締めくくる。
単なる大物列伝を超える本物のレジェンドヒストリーだ。 (廣済堂出版 990円)
「野村克也は東北で幸せだったのか」金野正之著
「野村克也は東北で幸せだったのか」金野正之著
ボヤキと毒舌のイメージの強い野村克也だが、長い監督生活のなかで育てたのは選手以外に、実はスポーツ記者もいた。没後もとぎれることなく番記者たちの回想ドキュメントが出るのはその証しだろう。
本書の著者は野村楽天時代、地元の河北新報でイーグルス担当に配属される。実はプロ野球取材は初めて。番記者の中でも末席で聞き耳を立てるしかなかった。だが、「ノムさん番の1年は、ほかの球団を3年経験するのより財産になる」との先輩記者の言葉どおり、生涯にわたる影響を受けることになる。特に最下位の楽天をリーグ2位まで立て直しながら契約満了を告げられたあと「河北新報を味方にできなかった」とのぼやきを「胸に刺さったとげのように」長年感じてきたという。
本書は新聞連載のコラムを主体にしてあるが、イーグルスの地元・仙台で得た人とのつながりをたぐる終章とエピローグは特に一読の価値あり。人を見抜く繊細な目と心の持ち主だったことを描き出す見事なエンディングだ。 (徳間書店 1870円)