<理想の福祉国家>の現実
「スウェーデン 福祉大国の深層」近藤浩一著
税金は高いが、その代わり福祉は充実。子育ても教育も老後の心配もなし──というスウェーデンの通念は本当か。実態は大きく違っているらしいのだ。
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「スウェーデン 福祉大国の深層」近藤浩一著
著者の経歴が面白い。90年代に大学を卒業し、神奈川県警に就職したが、その後オーストラリア留学を経てIT企業に転職。スウェーデンの電子機器の大手メーカー、エリクソンに入社してドイツ勤務。その後はスウェーデンの本社勤務だという。欧州歴は既に10年を超える著者だけにヨーロッパやスウェーデンのいいところも悪いところもわかっている。その立場からすると、日本でいつのまにか広まった“スウェーデン理想国家神話”が気になるらしい。
たとえばスウェーデンでは勤務中に「フィーカ」と称するコーヒー休憩をやたらと取る。おかげでちっとも効率が上がらない。理想社会といいながら若年失業率は20%超えと高く、対策は日本のハローワークと大差ない。制度の悪用も多い。住宅難もひどく、人的ミスによる事故は多発。医師の技術も「日本では考えられないほど低い」とバッサリ。環境活動家のグレタ・トゥーンベリは有名だが、その尻馬に乗る環境ビジネスはあこぎで、しかも平和イメージの陰で軍需産業は肥え太る。
それでも「大のスウェーデン好き」と言い切る著者。できればその「好き」のわけを教えてほしかったところだ。 (水曜社 1760円)
「ポピュリズム、ナショナリズムと現代政治」渡辺博明編
「ポピュリズム、ナショナリズムと現代政治」渡辺博明編
現代の欧州は北から南までポピュリズムと反動的な右翼の台頭が著しい。昨今のフランスの年金改革反対デモも、反マクロンの動きが極右の国民連合支持に転化する危うさを秘めている。
本書は欧州全域にわたる右傾化の動きをそれぞれの専門家が具体的にあつかった専門論集。その第6章が「スウェーデンにおける右翼ポピュリスト政党の伸長と政党政治の変容」だ。スウェーデン民主党はその名に似合わず「ネオナチ的な民族主義運動に起源をもつことが明らかな政党」。対する社会民主労働党は長年政権の座にあったとはいえ、支持の低落傾向に悩まされ、福祉国家の最も信頼できる担い手としての地位が揺らいでいる。
早くから移民を労働者に受け入れてきたのがスウェーデンだが、右派勢力は表面的には非排除の姿勢を見せながら、社会の「団結」を強調することで、実は「スウェーデン人」と「移民」の分断をちらつかせていることが読み取れる。マイルドなトランプ流といったところだろうか。 (ナカニシヤ出版 3850円)
「欲望の鏡」リーヴ・ストロームクヴィスト著、よこのなな訳
「欲望の鏡」リーヴ・ストロームクヴィスト著、よこのなな訳
いくらフェミニズムやジェンダーの思想が浸透しても人はあいかわらず古い通念にしばられている。美醜の観念は特にそうだろう。近ごろは大谷翔平まで化粧品のCMに登場するのだからなおさらだ。本書の著者はスウェーデンで有名な漫画家。それもフェミニズム漫画によって、これまでの「美の理想」や「魅力」なるものがいかに他人の基準で作られてきたかを解き明かす。
たとえば年頃になるとCMやファッション写真を見て「自分はどうしてこんなじゃないのか」と悩む。そんなのくだらない、とは本書は言わない。逆に誰かにきれいに写真に撮ってもらう必要はなく自分で自分を撮ればいいんだ、という。なぜなら西洋には「自分がきれいだと思うべきではない」と女を調教してきた歴史が2000年近くもあるからというのだ。
西洋史や古今の美術から豊富に例を引き、キム・カーダシアンら現代のセレブは男の欲望をそっくり自分のものに奪いとり、自分で自分に欲望する技を身に付けたのだ、と喝破する。
新たなスウェーデン像にもつながるユニークな挑戦だ。 (花伝社 1980円)