宗教2世
「小川さゆり、宗教2世」小川さゆり著
安倍元首相銃撃事件以来、一気に注目されるようになったのが「宗教2世」。親による子どもの精神的支配とからむ点で普遍性のある問題だ。
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「小川さゆり、宗教2世」小川さゆり著
元首相銃撃事件は2つの教訓を残した。ひとつは政治家が票目当てに軽率に宗教団体に近づくことの愚かさ。もうひとつが熱心な宗教信者は、自分が無意識に子を抑圧し、苦しめ、犯罪に走らせるほど強い力で支配していることに気づいてないということだ。
本書は銃撃事件後、統一教会の信者2世だった過去を、「統一教会の教会長の娘」というアカウント名でSNSに発信してきた著者の手記。同じようなツイートをした人はほかにもいるが、著者は周囲からの圧力に抗してマスコミの取材にも応じ、「小川さゆり」というペンネーム(?)を新たに名乗って家族の信仰に苦しむ被害者救済法の制定運動に尽力してきた。
熱心な統一教会信者の両親のもとに「神の子」として生まれたといわれてきた幼少期。しかし収入のほとんどを教会に献金してしまうため家は貧しく、学校ではいじめに遭い、結果的に教会の中で同じ2世と仲良しになるしかなかったという。
本書を読むと、人の成長過程、自己形成の過程をまるごとのみ込んでしまう宗教の力のすさまじさを改めて目の当たりにさせられると同時に、その体験を要約して代弁できないことも痛感する。
(小学館 1650円)
「宗教2世」荻上チキ編
「宗教2世」荻上チキ編
ラジオ番組を拠点に政治や社会の問題に切り込む著者は、参院選のさなかに起こった安倍元首相銃撃事件の前から「選挙が終わったら、宗教や政治や、宗教2世に関する特集をしよう」と考えていたという。
本書はそこで企画、放送された宗教2世問題についてのインタビューの採録集だ。
宗教2世は親からの圧力や支配がすごいのは知られているが、実は地下鉄サリン事件でのオウム真理教の一件以来、伝統宗教も新宗教も新しい信者の獲得がうまくいかない状況があり、それが親の信仰を子供に受け継がせる圧力になっている面があるらしい。
巻末には宗教2世を描いたマンガ、小説、映像作品を紹介したコラムなども掲載され、問題の広がりを知る助けになる。
(太田出版 2200円)
「みんなの宗教2世問題」横道誠編
「みんなの宗教2世問題」横道誠編
40歳で自分が発達障害であることを初めて知ったのが本書の編者。
ドイツ文学者ながら自分と同じ障害に苦しむ人たちの自助グループを主宰していることで知られるが、実は親が「エホバの証人」の信者。つまり本書は宗教2世自身がみずからを含めた問題に迫った編著でもあるわけだ。
第1章ではさまざまな宗教信者の2世たち当事者の声を集め、第2章ではこの問題に関する海外での研究動向をリポート。ここは類書にない本書の強みだろう。第3、4章では宗教学者や精神科医らとの対談を収録。第5章は宗教2世を描く創作物を論じ、最終章では編著者自身が全体を総括する。
いわば当事者でもある研究者によるフィールドワークの一種といえるだろう。
(晶文社 1980円)