グリーン経済は可能なのか
「グリーン経済学」ウィリアム・ノードハウス著 江口泰子訳
気候変動阻止は待ったなし。だが世界はウクライナにガザと、環境にマイナスを与える出来事ばかりだ。
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「グリーン経済学」ウィリアム・ノードハウス著 江口泰子訳
グローバル経済は世界中に富をもたらした、と喧伝されたのはいまや昔ばなし。その悪しき副産物となったのが気候変動。米トランプ前大統領がいかに「フェイクだ!」と吠えようと、異常気候はまぎれもない現実なのは周知だ。
本書の著者はノーベル経済学賞受賞の米国人経済学者。その最新業績は気候変動と経済に関する理論だ。地球温暖化を遅らせる方法をあれこれ模索することで本書のアイデアを得たという。
目次には「グリーン経済学」「グリーン効率性」「グリーン連邦主義」「グリーン政治理論」「グリーン税」「グリーン公平性」などまさにグリーン尽くし。その折々に専門の経済学の講義風解説が交じるというのが本書の趣向になる。
「グリーンの敵である行動科学」の章などは、経済学者が省エネの費用対効果を見積もるときに陥りがちな過ちをていねいに紹介する。電化製品などを選ぶ際、省エネのための初期投資でどちらが得かを選ぶときに間違うことが多いのはなぜか。
じっくり読むことで頭の体操にもなりそうだ。
(みすず書房 4180円)
「肥料争奪戦の時代」ダン・イーガン著 阿部将大訳
「肥料争奪戦の時代」ダン・イーガン著 阿部将大訳
リンといってもすぐにピンとくる人は少ないだろう。実は「悪魔の元素」の異名を持ち、自然発火したり藻類の異常発生をもたらしたりする。本書冒頭では藻の沼にハマった逃亡犯が生命の危機に瀕する場面が描かれる。ところがリンは生命維持に必須の元素で、肥料にすると農業を支えて人口爆発や食糧危機への対策に役立ちもするのだ。
本書は環境問題にくわしい米ミルウォーキーの地元紙記者によるルポルタージュ。ピュリツァー賞ファイナリストのベテランだけに問題提起もわかりやすい。大手のバイオ化学メーカーはリンを大量使用した化学肥料の増産をもくろむが、リン肥料の争奪は国際情勢を不安定化させ、藻類の大量発生など環境をゆがめてもいる。
現代の環境問題は多種多様な要因が複雑にからみあっている。メキシコ湾岸ではハリケーンの影響で海水の淡水化現象が起こって藻が異常発生し、有毒水を逃れた魚が大量に打ち上げられるなどの事件もあったという。
(原書房 3080円)
「環境覇権」竹内康雄著
「環境覇権」竹内康雄著
日経新聞のブリュッセル特派員としてEUの取材を長年続けた著者は、ロシア軍のウクライナ侵攻のニュースを機に「EUの本気を見た気がした」という。環境分野への投資を積み増すことで景気を回復させる「グリーン・ディスカバリー」はこれまでにも提唱されてきたが、ウクライナ情勢でロシアへのエネルギー依存が問題になる以上、もはや待ったなしというわけだ。
本書を読むとヨーロッパの政治の中核に環境問題があるのがよくわかる。欧州各国での緑の党の躍進ぶりは右派のポピュリスト政党と同じぐらい強い。原発に消極的だったイギリスも昨年4月の中長期計画で原発比率の大幅引き上げを決定した。著者は岸田政権の原発稼働拡大にもEUの影響があるとみている。
環境問題には個人の生活行動が大事。著者は日本社会も前向きとみるが、省エネ促進で罰則規定の法律もあるヨーロッパと、「お願い」一辺倒の日本には大きな違いもあるとしている。
(日本経済新聞出版 2970円)