「国宝クラス仏をさがせ!」瀨谷貴之著

公開日: 更新日:

「国宝クラス仏をさがせ!」瀨谷貴之著

 奈良や京都の古刹を詣でれば、国宝の仏像が静かに出迎えてくれる。だから、国宝仏は世に多く存在するものだとばかり思い込んでいたが、実際には国宝指定の「彫刻」(若干の近代彫刻を除き、ほぼ仏神像)は、わずか140件しかないそうだ。そのほとんどは昭和25(1950)年の文化財保護法の施行早々に指定されたもので、その後国宝に指定された仏像はごく限られたものだけだという。

 本書は、今はまだ国宝にはなっていないけれど、いずれそうなっても不思議ではない優れた仏像を取り上げ、その歴史や見どころを解説してくれるビジュアルガイド。

 巻頭に登場するのは神奈川県横浜市・称名寺の「弥勒菩薩立像」。鎌倉は古都といわれるが、実は鎌倉時代にさかのぼる建造物は一棟も残っておらず、仏像も主要寺院の本尊で創建時から伝わるものは「鎌倉大仏」以外皆無に近いという。そんな中、鎌倉文化を代表する仏像がこの「弥勒菩薩立像」なのだそうだ。

 同寺は北条一門の有力者・北条実時が建立した阿弥陀堂が始まり。弥勒菩薩立像は建治2(1276)年に発願され、翌々年末ごろに完成したと思われる。弥勒菩薩像の多くは上半身をあらわにして条帛(じょうはく)をまとうが、この像はゆったりと法衣を着ており、やや猫背の姿態などに宋の文化の影響がみられるという。また、出来栄えの良さに加え、表面に塗られた金泥や切金、さらに光背や台座、宝冠、装身具に至るまで当初のものがそのまま残っている。

 以後、近年研究が進む南北朝時代の「院派」の作品である浜松市・方広寺の釈迦三尊像をはじめ、福島県南相馬市の大悲山の石仏、日蓮聖人の遺骨が像内に納められている東京・池上本門寺の「日蓮聖人坐像」など33件を写真と解説で紹介、仏像の新たな魅力を教えてくれる。 (新潮社 2475円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    国分太一との協議内容を“週刊誌にリーク”と言及…日本テレビ社長会見の波紋と、噴出した疑問の声

  5. 5

    衆院定数削減「1割」で自維合意のデタラメ…支持率“独り負け”で焦る維新は政局ごっこに躍起

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  5. 10

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較