93歳「現役日本最高齢の大道芸人」ギリヤーク尼ヶ崎はなぜ路上に立ち続けるのか
「生きることと踊ることは一体」
異端な人生を歩むギリヤークさんだが老いや病は私たちと同じだ。93歳になり、さまざまな病を患い、以前のように立つことも歩くこともままならない。その姿をさらしてでも踊るのは被災への“追悼の舞”。この“魂”が人々の心をつかみ、多くの公演を成功させている。「伝説の大道芸人」ギリヤーク尼ヶ崎に一体となり支える黒子の紀あささんは次のように話す。
「ギリヤークさんは、生きることと踊ることが一体なんですよ」。“魂の踊り”とは、老いと病を受け入れ、今できることで精いっぱい舞う姿=生きる姿だ。
日本を代表する舞踏家・大野慶人さん(1938~2020年)は、亡くなる数日前、門下生たちの「一緒に踊りませんか」の問いかけに、車椅子に座り片腕でラストダンスを踊った。生前、慶人さんは、「自分を踊らせてくれるものは周囲の空気なのだ」と言っていた。
93歳になる「大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎」という人間を踊らせ続けるのは何だろうか。追悼の思いだけではないだろう。路上でしか得られない、人々とつくり上げてきた独特な一体感が彼を踊らせるのだ。観客のまなざしは家族を見守るように限りなく温かかった。