防災新常識 緊急地震速報後の最初の2分は「玄関」で待機
今月13日夜半、福島県沖で起きた地震(M7.3)は最大震度6強を観測。都内でも「緊急地震速報」が鳴って大きな揺れが襲った。災害は初動対応が生存率を左右するだけに、この機会におさらいしておきたい。
◇ ◇ ◇
あの日、自宅で就寝の準備をしていたら、テレビ番組の画面に大きな警報音とともに「緊急地震速報」の文字が表示された。一瞬身構えつつ、最近は肩透かしをくらうことが多かったと気を抜いていた。だが、今回は体感で1分以上は揺れが収まらず、マンションの壁がミシミシと音を立てていた。「首都直下地震だったら……?」と頭をよぎったが、警報が鳴ってしたのはガスの元栓をしめることと、慌てて部屋着からジャージーに着替えたことくらいだった。
日本は常に首都直下地震(今後30年で70%)や南海トラフ(同80%)の巨大地震といったリスクと隣り合わせ。家族を守る準備を怠ってはいけない。
最近はリモートワークで家時間が増えたし、今回のように深夜に「緊急地震速報」が鳴った場合はどうするか――。
備え・防災アドバイザーで「ソナエルワークス」代表の高荷智也氏に自宅で警報を受けたことを想定し、アドバイスを聞いた。
「まず前提として、鳴った瞬間に即行動し、揺れがこなければ“訓練になったと喜ぶ”という意識で対応することが重要です。ただ、現実的には『緊急地震速報』が本当に役立つのは、強い揺れに襲われたとき。つまり、揺れが強い=震源が近い=鳴ってからすぐ揺れる場合です。ほとんど余裕がないんですね。ちょうどコンロの目の前にいたら、コンロの火を消すといった1秒以内にできることがあればやってもよいですが、消火にとらわれる必要はありません。調理中であっても、IHの場合はコンロが、ガスの場合は元栓(マイコンメーター)が地震のときは自動的にシステムを遮断します。落下物などから身を守れる場所に身を寄せるのが何より優先です」
「緊急地震速報」が鳴る基準は、「地震波を瞬時に解析し、震度5弱以上の予測が立ったときに、震度4以上の想定地域に一斉配信される仕組み」(気象庁防災室地震火山部担当者)だという。つまり、鳴ったら誤報でない限り、巨大地震に見舞われる可能性がある。
それでは、すぐに身を守れる場所とはどこなのか。前出の高荷智也氏は自宅の「安全ゾーン」として、①家具が倒れてこない場所②荷物などが降ってこない場所③ガラスなどが割れない場所と指摘する。
「たとえば、もともと物が少なく、窓もない玄関や廊下は安全ゾーンのひとつ。部屋なら家具固定や落下防止を行い、頑丈なテーブルの設置、落下物対策などを施せば安全ゾーンにすることができます。とくにマンションの場合は閉じ込めを防ぐため、玄関を開けたいところですが、強い揺れに襲われるとその余裕もありません。なので、最初から玄関周りを安全ゾーンにしておくのは有効でしょう。揺れが落ち着いたら速やかに開けられます。玄関の靴箱などの棚にはクッションを入れておくと“防災頭巾”の代わりになります」
外に飛び出すのは5分以降
地震による停電対策を兼ねて、安全ゾーン近くのコンセント(プラグソケット)には、停電時自動点灯ライトなどを差しておくのもよい。
東京消防庁のHPにも、揺れを感じたり、緊急地震速報を受けたときは、丈夫なテーブルの下や物が落ちてこない空間に身を寄せ、揺れが収まるまで様子を見る(発生から0~2分)と警告している。その後、台所の消火活動と玄関のドアを開ける(同2~5分)、近所の声やラジオなどで火災・津波といった情報をキャッチして外に避難(同5分以降)といった流れだ。
〈表〉は、高荷智也氏による、最低限「枕元」か「玄関」に置いておくべきグッズだ。避難時は両手を空けるため、荷物は手提げではなくリュックに入れておこう。
■「緊急地震速報」鳴らなかったのはどうして?
先述の通り、気象庁は震度5弱以上の地震が予測される場合、震度4以上の想定地域に警報を配信する。だが、今回は東京・千代田区、中央区、渋谷区など都内の多くで震度4を観測していたが、鳴った人と鳴らなかった人がいた。なぜなのか。
「気象庁のデータは大手3社をはじめ携帯キャリアーに自動配信されます。震度4以上の想定地域にもかかわらず、警報が鳴らないのは各端末の受信設定がONになっていないケースが考えられます」(前出の防災室地震火山部担当者)
最近発売されている端末はほとんどが初期設定で「ON」になっているが、「受信しない」が初期設定になっているケースもあるという。
たとえば、iPhoneなら、まずホーム画面から「設定」アプリを開き、「通知」の項目から「緊急速報」がオンになっているかどうかを確認する。Android(ドコモの場合)なら、アプリ一覧を見ると購入時に自動的にインストールされた「災害用キット」アプリがあるので、それを開き「緊急速報『エリアメール』」の項目を選び、「OK」ボタンにチェックするだけだ。記者の携帯はまもなく購入から3年を迎えるが「OK」にされていなかった。「鳴らないな……」と思った人はこの機会に見直しておきたい。
(取材・文=小野真依子/日刊ゲンダイ)