“五輪反対”で札幌市長選出馬表明の高野馨氏が語る 汚職まみれの五輪に固執する市政の異常
市の赤字公債残高は5500億円。五輪に税金を注ぎ込む余裕はない
──すると結局、また巨額の税金をつぎ込むことになりかねませんね。
札幌市には、そんな余裕などありません。札幌市は03年の上田文雄前市長の時代から、赤字公債である「臨時財政対策債(臨財債)」を発行し続けています。臨財債とは、毎年の財源不足を補填するために借りてくるお金のことで、本来は地方交付税で賄われるべきものですが、今は国の肩代わりをして地方が借金をしており、総務省は後年次に返還すると約束しています。ところが、もう20年以上その約束は反故にされ、札幌市の臨財債の残高は21年度末時点で約5500億円にも上ります。今も元利の返済分まで、毎年借金に借金を重ねている状態で、この臨財債は増加する一方なのです。まさに自転車操業です。こんな状態で、コストが膨張しかねない冬季五輪など開催できるわけがありません。
──限られた財源の中で、五輪に回すカネはないと。
1972年に札幌で冬季五輪を開催した際に、水道・下水道に地下鉄、道路といった都市インフラ、それから学校や公営住宅、体育館、プールなどさまざまな公共施設が造られました。それから既に50年が経過し、当時の施設は老朽化が著しい。何より優先すべきは、これら市民生活に欠かせない施設の改築・改修です。五輪のような“無駄”な公共投資をしている場合ではありません。それに、五輪の施設整備事業の大半をスーパーゼネコンが受注するでしょう。地元の中小業者はほとんど受注できないとみられますから、やはり市民の利益にはつながらない恐れがあります。
──札幌は大雪による被害も深刻です。
特に今年の2月には90年からの観測史上最多となる降雪を記録し、交通網がマヒ。市民生活は甚大なダメージを受けました。大雪の影響で除排雪費の総額は過去最高の300億円にも上ったほどです。2月から3月にかけて、こんな危機的状況だったにもかかわらず秋元市長は五輪招致の意向調査のさなかだったからなのか、テレビに出ては五輪の話ばかりしていました。大雪対策に関する発言はほとんどありませんでした。
■「イベント誘致で街づくり」のアナログ感覚
──札幌市は大会ビジョンとして「札幌らしい持続可能なオリンピック・パラリンピック~人と地球と未来にやさしい大会で新たなレガシーを~」などと掲げ、50年後、100年後の未来を見据えた街づくりを進めるための絶好の機会にするとうたっています。
そんなことは、何も五輪を「契機」にする必要はありません。持続可能、バリアフリーな街づくりをするなら、今からでもどんどん進めればいいだけの話です。そもそも、大会期間後の31年春、北海道新幹線の札幌延伸が決まっており、既に駅前再開発を中心に民間投資が活発に進んでいます。街づくりのきっかけは「五輪」でなく、「新幹線」で十分なのです。
──そもそも、ビッグイベントの招致を契機に街づくりを進めたり、経済活性化を図るという発想自体が、前時代的ではないですか。
確かにアナログ的な発想で、今の時代にはそぐわないと思いますし、五輪憲章の趣旨にも合致しません。特に札幌は、前回五輪が開催された72年当時は、街に若い人たちがあふれていた高度成長期でした。そのため五輪招致で経済発展もうまくいったのでしょう。しかし、今は急速に高齢者人口が増えてきています。これからは、高齢化社会にどう対応していくのかを見据えていかなければなりません。重要なのは福祉や医療の充実、除排雪の強化、そして老朽化した都市インフラや市民の使う公共施設の整備です。五輪より市民の生活が最優先です。札幌市はビッグイベントをやっている余裕などありませんよ。
(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)
▽高野馨(たかの・かおる)1959年、北海道美唄市生まれ。専修大文学部卒業後、82年に札幌市役所に入庁。主に財務畑を歩き、市民自治推進室長、南区長、市民文化局長などを歴任した。今年6月に「市民政党 札幌冬季五輪に反対する会」を設立。7月に札幌市長選への出馬を表明した。