熟読乱読 世相斬り
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【医の現在】風説に惑わされず能動的に医と向き合う
今年に入って爆発的に流行し始めた新型コロナウイルスによる肺炎は、中国の武漢から今や世界中に拡散しつつある。感染力の強さに比して、死亡率はそれほど高くない、という観測もあるが、だから安心というわけでは…
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【人質は本】売るがために翻訳者を監禁したのに中身が流出
今回とりあげるのは、現在公開中の映画である。といっても、内容は書物に関わる話で、「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」というのが邦題。サスペンス・ミステリーなので、ネタバレにならないよう注意しつつ、…
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【交雑の賜物】実は三百夜にも満たない「千夜一夜物語」
前回「イスラーム主義」について書いたら、「千夜一夜物語」、別名「アラビアン・ナイト」を読みたくなり、書庫から平凡社の東洋文庫に収められた全18巻&別巻(前嶋信次・池田修訳)をひっぱりだしてきた。この…
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【無知の衝突】お互いを知らないイスラムと西欧諸国の悲劇
正月早々、イラン革命防衛隊のソレイマニ将軍がアメリカの無人機によって爆殺されたニュースを見た瞬間、「うわ、やらかしたな!」と大声を出してしまった。ただ、われながら変だと思うのは、「やらかした」と言い…
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【死との戯れ】若い全裸美女と一夜添い寝する秘儀の悦楽
谷崎の「瘋癲老人日記」を取り上げたからには、川端康成の「眠れる美女」についても触れておきたくなる。両者とも「老人の性」を描いたものとして評価が高いが、作者の見据えている方角はほとんど正反対といってい…
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【ヘンタイ万歳】谷崎文学で味わう老いることへの武者震い
門松は冥土の旅の一里塚、などと一休宗純を気取るつもりはないが、このところ正月を迎えると老境なるものが忍び足に近づいてくるのを感じるようになってきた。こういう時には、谷崎潤一郎のようなヘンタイ大王から…
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【反社の撃退法】根本インフラである言葉を破壊した政府
「反社会的勢力」という言葉が指し示す内容について、政府は「あらかじめ限定的、統一的に定義するのは困難」という閣議決定をした。この決定が持つ日本語への破壊力は、これはもう、メガトン級(古いね)である。 …
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【遵法精神】正すべきことを正す姿勢を身につける大切さ
近ごろ、子どもへの「マネー教育」が大切だ、なんていう意見をよく見聞きする。しかし、個人的な感想としては、マネー勉強よりもまず、私たちの権利や義務について学ぶ「法律教育」の方が先であるような気がする。…
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【困るための童話】教育勅語ウンヌンと別次元の善への志向
「母をたずねて三千里」というお話があるが、あれを独立した児童小説だと思っている人はけっこう多い。が、あれは、19世紀後半にエドモンド・デ・アミーチスによって書かれた児童小説「クオーレ」の中の一章で、つ…
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【お道化】コメディアンやギャグ作家の命縮める笑いの負荷
先日、青森の金木でグラス片手のほろ酔いトークショーなどというステキなイベントがあり、高座をつとめさせていただいた。本好きなら金木と聞けばすぐさま太宰治の出身地だと思い至るはずだが、今回はそのものズバ…
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【政治はギャグ?】漫画を超えてしまった安倍政権の戯画化
「桜を見る会」騒動。税金を使って自分の後援会の人間を招待するのは、やはり汚職の一種だ。公職選挙法がザル法で役に立たないなら、なにか他に追及する手だてはないものか。 「桜を見る会」の来歴と本来の意…
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【頑固にアイマイ】反常識の生きざまにあう不思議な線引き
先月13日、吾妻ひでおさんが亡くなった。69歳という年齢は、現今では早い死であるだろう。だが一方で、吾妻さんご本人の壮絶な暮らしぶり(その一端が、今回の「失踪日記」に描かれている)を思うと、お疲れさ…
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【モンスター】リングの内外に巣くう魔物と怪物の自己破壊
いやー、コーフンしました! WBSSのバンタム級決勝戦。前評判では、「モンスター」井上尚弥が「レジェンド」ノニト・ドネアに楽勝なんて観測もあったが、とんでもない! 5階級制覇の元世界王者は、36歳の…
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【ピカレスク】人間という獣…ニヒリストたちの不屈に茫然
先日、面識のない学生からメールが届いた。文化会にサークルとして正式加盟したいので、ついては顧問をやってくれないか、というのである。サークル名は、麻雀同好会。いやあ、かなり面食らいました。なにせ、当方…
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【感傷の力】どうしようもない無力感に苛まれる時こそ文学
今日も雨がひどく降っている。またどこかで悲惨な災害が起きるのではないか、という不安を覚え、言いしれない無力感がひたひたと胸元にせりあがってくる。それを振り払うような気持ちで私が手に取るのは、「暗さ」…
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【ハードボイルド】男ってのはどいつもこいつも頭がおかしい
「ハードボイルドとは男性用のハーレクインロマンス」と喝破したのは、文芸評論家の斎藤美奈子さんだ。たしかに、女性向けシンデレラストーリーの集積であるハーレクインロマンスと、「酒に煙草に銃弾に美女」といっ…
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【男らしさ】オス→オトコ→男の進化で育まれる自己犠牲
「男らしさ」という言葉を使うにも、細心の配慮が必要な時代になった。もちろん、今でも、その使い方ヒジョーにマズイなあ、とため息をつきたくなる男のヒトをニュースで見かけたりはする。 一方で、「男ら…
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【物語の糸】超絶小説技法で愛を描く傑作アルゼンチン文学
先週ご紹介した「クモのイト」の後半で、著者の中田兼介さんが「スパイダーマン」をはじめ、クモにまつわる創作をいろいろ紹介していたが、その中に私にとっては懐かしい「蜘蛛女のキス」が入っていた。20世紀ア…
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【クモとweb】合理性では計り知れない多様性と個性の本質
近頃、家の中でハエトリグモをよく見かけるようになった。ジャンピング・スパイダーの英語名にふさわしく、手を近づけると素早くぴょんぴょん跳びはねて逃げ、なかなか可愛らしい。そういえば、清掃員になった芸人…
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【内奥の獣】他の動物よりもはるかに厄介な人間の獣性
前回紹介した「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」には、イギリスの地方都市に住む中学1年生が経験する、ささやかな、しかし多彩な「ドラマ」が描かれていた。現在進行形のその面白さはノンフィクショ…