鈴木敏夫 新・映画道楽 体験的女優論
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浅丘ルリ子編(4)「寅さんとリリーは似た者同士 一緒になれない関係が新たな恋の形をつくった」
浦山桐郎監督の「私が棄てた女」(1969年)が、「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(73年)に影響を与えているのではないかと見る鈴木敏夫。まず、浅丘ルリ子のリリー松岡が初登場した「寅次郎忘れな草」の物…
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浅丘ルリ子編(3)「強い情念によって突き動かされる女性を演じたとき、強い光を放つ」
「男はつらいよ」シリーズ(1969~2019年)に、97年の「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」も含めて6度マドンナとして登場したリリー松岡。彼女は場末のクラブで歌を歌いながら、水商売の男…
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浅丘ルリ子編(2)「真情として寅さんが共感できる存在、それがリリーなんでしょうね」
1969年に始まった映画「男はつらいよ」シリーズは、毎回マドンナ役にゲスト女優を迎えて続いていった。中でも人気を集めたマドンナが、浅丘ルリ子演じる売れないクラブ歌手・リリー松岡である。 「最初…
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浅丘ルリ子編(1)「僕にとっての『男はつらいよ』は最初テレビシリーズだった」
今年91歳にして90本目の監督作「こんにちは、母さん」(2023年)を発表した山田洋次。その代表作が「男はつらいよ」シリーズ(1969~2019年)である。映画ファンの鈴木敏夫もこのシリーズをリアル…
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星由里子編(6)「生涯東宝芸能の女優だったところに、一徹な気ごころを感じますね」
星由里子は1969年、買収王と呼ばれた財界人・横井英樹の長男・邦彦と結婚。だがこの結婚は80日余りで破局を迎える。離婚の理由は性格の不一致といわれた。 「結婚の前年、彼女は『リオの若大将』(1…
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星由里子編(5)高倉健さんの相手役を4本続けて務めたのは相性が良かったからだと思うんです
「日本侠客伝・花と龍」(1969年)を皮切りに、星由里子は「新・網走番外地/さいはての流れ者」(69年)、「新・網走番外地/大森林の決斗」(70年)、「望郷子守唄」(72年)、「昭和残侠伝・破れ傘」(…
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星由里子編(4)「日本侠客伝・花と龍」から星さんは東映の作品で一味違った活躍を見せていくんですよ
1968年、星由里子は「忘れるものか」で日活の石原裕次郎と共演。彼女にとってはこれが、東宝以外の初の他社作品だった。映画は、かつて裕次郎と二谷英明の2人に愛された星由里子が二谷を選ぶが、二谷が謎の死…
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星由里子編(3)『若大将』シリーズの澄ちゃんに集約されて他の代表作が作れなかった
1962年、星由里子は「娘と私」「箱根山」「河のほとりで」と文芸作品に、立て続けに出演した。当時中学生だった鈴木敏夫は、それらの映画をリアルタイムで見ている。 「獅子文六原作の『娘と私』は、日…
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星由里子編(2)「若大将の澄ちゃん役は東宝の女優のイメージを体現していた」
1967年、鈴木敏夫は慶応義塾大学文学部に入学した。映画「若大将」シリーズの主人公・田沼雄一は京南大学に通っている設定だが、演じた加山雄三が慶応義塾高校からスライドして大学に進んでいたことを考えると…
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星由里子編(1)衝撃だった「若大将」シリーズ、大学に抱いていたイメージがすべて吹っ飛んだ
女優・星由里子は1958年に東宝が募集した「ミス・シンデレラ娘」で優勝し、東宝に入社。「すずかけの散歩道」(59年)で映画デビューし、浜美枝、田村奈巳と共に「東宝スリーペット」の一人として売り出され…
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多岐川裕美編(5)深作欣二と宮崎駿が描く凶暴と無垢「どこか相通じる何かを感じる」
「仁義の墓場」(1975年)で、破滅的な人生を送る伝説のやくざ、石川力夫を描いた深作欣二監督。その暗く、孤独の影をたたえた男を、なぜ監督は主人公に選んだのか。 「題材は東映のプロデューサー・吉田…
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多岐川裕美編(4)理屈では測りきれないヒロインは深作映画の中でも特殊だった
深作欣二監督の「仁義の墓場」(1975年)で主人公・石川力夫の妻・地恵子を演じた多岐川裕美。劇中では、なぜこの女性が石川に惹かれ、破滅へと突き進む彼を支え続けたのかは描かれない。彼女の“自我”が分か…
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多岐川裕美編(3)映画「仁義の墓場」の救いのなさの中に咲いた花一輪
1975年2月、深作欣二監督、渡哲也主演の「仁義の墓場」が公開された。当時の深作監督は「仁義なき戦い」5部作を完結させ、続く「新 仁義なき戦い」(74年)を作り終えたばかり。また渡哲也は大河ドラマ「…
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多岐川裕美編(2)主演作「聖獣学園」の体当たり演技は話題を集めたが、興行的には惨敗
1973年に徳間書店から創刊された劇画雑誌「コミック&コミック」。その編集者となった鈴木敏夫は、原作を書いた東映の監督たちと親しく付き合うようになった。 「一緒に食事をした印象だと、石井輝男さ…
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多岐川裕美編(1)「コミック&コミック」編集者時代に担当した中島貞夫さんと石井輝男さん
今回取り上げる多岐川裕美は、東映映画「聖獣学園」(1974年)の主演に抜擢されて、女優デビューしている。だが彼女のことを語る前に、鈴木敏夫の個人史から話を始めよう。 「僕は慶応義塾大学の学生時…
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池内淳子編(7)「愛する男に今の自分ができる精いっぱいの化粧。これが最後の化粧になるんです」
「沓掛時次郎・遊侠一匹」(1966年)の後半。病身のおきぬ(池内淳子)は、これ以上時次郎(萬屋錦之介)に世話をかけたくないという思いから息子の太郎吉とともに姿を消した。それから1年後、雪の降る旅籠の一…
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池内淳子編(6)「沓掛時次郎・遊侠一匹」禁欲的なヒロインを見事に演じた
池内淳子は「けものみち」(1965年)に主演した翌年、加藤泰監督の「沓掛時次郎・遊侠一匹」(66年)に出演した。これは作家・長谷川伸の同名戯曲を映画化した“股旅もの”である。 「股旅ものは長谷…
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池内淳子編(5)男に弄ばれても、自分なりに生きようともがく女性を熱演
児玉誉士夫や横井英樹をモデルに、政界の大物やホテルの支配人に弄ばれる女性を描いた、池内淳子主演の「けものみち」(1965年)。横井英樹は82年に火災が発生したホテルニュージャパンの所有者だったが、鈴…
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池内淳子編(4)池内淳子主演「けものみち」の原作小説のモデルになった2人の男
池内淳子は、東京で祖父の代まで8代続いた乾物屋の長女として生まれた。厳格で古風な祖父は、彼女を高校卒業後すぐに見合い結婚させようとしていて、それを嫌った池内淳子は家族に内緒で三越百貨店に就職。呉服売…
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池内淳子編(3)「花影」にみる“文壇”という特殊な世界の闇…文士たちが水商売の女を弄ぶのが普通だった
愛を求めてさすらう、夜の銀座に生きた女性・葉子を描いた、池内淳子主演の「花影」(1961年)。誰からも本当に愛されない彼女は自ら死を選ぶが、鈴木敏夫はそこにかつてあった“文壇”という特殊な世界の闇を…