「神学の思考」佐藤優氏
タイトルの「神学」とは、キリスト教のことを指す。その神学が内包する思想は、究極の実用、生きていくために大きな助けになるという。
「今、キリスト教徒は全世界に21億人おり、キリスト教の思想や発想はまた欧米文明の基礎になっています。ですから、神学の思考を知ると、大きくは2つの点で役に立ちます。ひとつは、欧米の人たちの理屈が読めること。もうひとつは、一般の人々の目には見えない事柄を可視化できることです」
IS(イスラム国)によって殺害されたジャーナリストの後藤健二氏が国連で称賛されたのも、彼がクリスチャンだったから。新約聖書にあるイエス・キリストの言葉、「99匹の羊を野原に残してでも、迷った1匹の羊を捜すべきだ」に即し、捕らわれた湯川氏を助けにいったと、世界の人々は認識しているという。キリスト教徒は、世の中の掟よりも、心の中に突然聞こえてくる神の声〈召命〉を重視する。後藤氏の行動は召命によるもので、それを世界の人々は称えているのだ。
「よく分からないことがあった時、神学の思考という“複線”を敷くと見えてくることは多々あります。また、召命の例からも分かるように、欧米人は自分と神との関係・約束を大切にします。日本では世間の目を気にする離婚も、神に自分の気持ちを偽ることはよくない、と欧米人は選ぶ。自分のキャリアや人生を守ろうとするのは、聖書の『あなた自身を愛するように隣人を愛せよ』が刷り込まれているからで、逆にいえば、自分を大切にしない人には警戒する。人の命を奪うことのハードルも低くなるからなんですね」