古典を現代語訳で読む特集
古典を読んではみたいが、現代人にとって原文は、同じ日本語で書かれているとはとても思えない。ゆえに、古典は時代に合わせた現代語訳を通して読み継がれてきた。訳者には、その時代を代表する言葉の「名工」作家たちが名を連ねている。そこで今回は、最近、刊行された古典の新訳本を集めてみた。
■「古事記」池澤夏樹訳
言わずと知れた日本最初の文学作品。本作の訳者でもある作家の池澤夏樹氏が、個人編集した全30巻からなる「日本文学全集」の第1巻である。
日本で最も名の知られた本の一冊だが、その存在を知らない人を探すのと同じくらい、原文を完読した人は稀なのではなかろうか。何しろ、原文は漢字だけで記述された「倭文」化した漢文(変体漢文)なのだから。
冒頭に添えられた「序」によると、和銅4(711)年、元明天皇が太朝臣安万侶に、天武天皇が記憶力抜群の稗田阿礼に伝えた正しい歴史を文字にして残せと命じ、翌年に完成したのが古事記(全3巻)だという。
上巻は、神々が生まれ、大地がつくられ、そこに人間社会が構築されて天皇による統一を待つまでが描かれる。そして、中巻・下巻は一つ一つの話が独立した統一したストーリーを持たない短編集仕様なのだが、訳者は物語が進むに従って登場人物は神から人間化し「奔放にふるまって迷える姿をさらし、神話を超えて文学へと昇華している」と解説する。