【生き物の世界特集】
「身近な鳥の生活図鑑」三上修著
仕事、仕事で追いまくられる生活を送っていると、人は自分が地球上に生きる動物の一種であることを忘れてしまう。そんな時こそ、生き物としての本能を呼び起こしてくれる本の海にダイブすべし。今回は、人間にとって身近な生き物から大自然の野生動物まで、それぞれの世界にひたれる本を4冊ご紹介!
大自然のなか躍動感あふれる生き物の営みを感じたいと願っても、日々、通勤電車に揺られる都市生活者には、なかなかそんな機会は訪れない。だからといって、コンクリートジャングルでは生き物とのふれあいはかなわぬ願いなのか……と諦めてしまうのは早計だ。都市に順応し、都市を生きるための環境として活用している鳥たちがいる。そんな身近な街中の鳥の生活を解説してくれるのが、三上修著「身近な鳥の生活図鑑」(筑摩書房 940円+税)だ。
日本には現在約600種の鳥がいて、そのうちの約50種が街の中で暮らしている。街中にそれだけの鳥がいるのだから、バードウオッチングのために森に出かけなくても、実は意識さえすれば彼らの生態を日常生活の中で観察することができるのだ。
都市にすむ鳥は、イタチやキツネやヘビや鷹などの天敵がいない環境と、都市の中に存在する神社や寺や公園などの緑地を利用し、上手にエサを探して子育てをして、次世代へつないでいく。たとえば、スズメをよく観察してみると、春から夏にかけての子育て期に街中でつがいになって過ごし、夏を過ぎると集団をつくって近くの農耕地などに移動して暮らしているという特徴がある。
しかし近年は、エサを取る緑地や巣を作れる住宅の減少などもあって数が減少していて、そのせいで街中における雑草や害虫の駆除効果が減るのではないかと著者は指摘する。
ほかにも、伝書鳩をルーツとするドバトの求愛作法や方向感覚の秘密、カラスの種類による生態の違いや人間への攻撃の手順、実はそんなに身持ちが堅くないツバメのメスの生態、河原の石の間から都市の建造物の隙間へとすみかを移したハクセキレイなど、意外と知られていない街の鳥の生活を紹介。
さらには、自然環境や生態に悪影響を与えないための餌やりの作法、フンや鳴き声や臭いなどに困って鳥の巣を撤去したいと思った時の対処法、鳥と人との快適な距離感についても考察。「鳥といっても、スズメ、ハト、カラスくらいしか知らない」という人が、暮らしの中で身近な鳥の生態を楽しむための一冊となっている。