著者のコラム一覧
太田治子作家

1947年生まれ。「心映えの記」で第1回坪田譲治文学賞受賞(86年)、近著に「星はらはらと 二葉亭四迷の明治」(中日新聞社)がある。

死ぬまでにやっておきたい10のこと、私は何を

公開日: 更新日:

「人生の最後に笑顔で死ねる31の心得」石賀丈士著 マキノ出版 1300円+税

 年のことも、死ぬことも、忘れていたい。そう思っている私にとって、「人生の最後に笑顔で死ねる31の心得」というこの本のタイトルは、耳に痛い。

 第1章は、「50歳を過ぎたら自分の最期を考えよう」である。著者の、いしが在宅ケアクリニック院長の石賀丈士さんは満40歳の時に、「死ぬまでにやっておきたい10のこと」を考えたという。はて、私のそれは何だろう。猫か犬を飼いたい。これは、幼いころからの夢であった。しかし、今住んでいる賃貸マンションは、動物を飼ってはいけないことになっている。一軒家に住みたいと思うものの、お金がない。それでも夢があるのは、幸せだと思う。

 この本には、さまざまな方の笑顔の写真が載っている。86歳の女性のNさんは、肝臓がんが末期まで進行した状態で2年早めて米寿のお祝いをした。独り暮らしをされていたNさんを囲んで親戚一同との記念写真である。この親族会は、ご本人の出身地からすぐ近い温泉で開催された。2泊3日のこの時の旅行がどんなに素晴らしいものだったかは、Nさんのはじけるような笑顔を見るとよくわかる。Nさんの「やっておきたいこと」は、親族会だったのである。Nさんがお亡くなりになったのは、それから約1カ月後だった。

 一方、65歳の男性のKさんの笑顔は、抗がん剤が「治す治療法」とはならない場合があることを教えてくれる。膵臓がんが再発したKさんと著者はじっくりと話をした結果、食べたいものを好きな時に食べるように、奥さまと毎日を楽しむ方向へもっていくことを決断する。すると病院で「余命3カ月」の宣告を受け入れたKさんはその後、1年半を生き抜かれたという。

 最期の時に、家族に向かって「ありがとう」をと、著者は言う。さて今日も私は、娘にこの原稿をパソコンで打ってもらうために、「ありがとう」と言う。ずっと毎日そう言っている。

【連載】生き生きと暮らす人生読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  2. 2

    ヤクルト村上宗隆「メジャー430億円契約報道」の笑止…せいぜい「5分の1程度」と専門家

  3. 3

    1年ぶりNHKレギュラー復活「ブラタモリ」が好調も…心配な観光番組化、案内役とのやり取りにも無理が

  4. 4

    回復しない日本人の海外旅行…出入国数はGWもふるわず、コロナ禍前の半分に

  5. 5

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  1. 6

    「リースバック」で騙される高齢者続出の深刻…家を追い出されるケースも

  2. 7

    眞子さん極秘出産で小室圭さんついにパパに…秋篠宮ご夫妻に初孫誕生で注目される「第一子の性別」

  3. 8

    田中圭にくすぶり続ける「離婚危機」の噂…妻さくらの“監視下”で6月も舞台にドラマと主演が続くが

  4. 9

    千葉工大が近大を抑えて全国トップに 「志願者数増加」人気大学ランキング50

  5. 10

    三山凌輝活動休止への遅すぎた対応…SKY-HIがJYパークになれない理由