「未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法」上田篤盛著/講談社現代新書/2019年
近未来予測はインテリジェンスにおける重要な機能だ。上田篤盛氏は、陸上自衛隊の情報部隊での実務経験を生かしてインテリジェンス分析の優れた作品を上梓した。
<「インテリジェンスとはなにか?」をあらためて説明すると、ある相手(たとえば北朝鮮など他国)に関する情報を可能な限り集めたうえで、その情報を元に相手が潜在的にどの程度の能力をもっていて何を考えているかなどについて分析し、そして将来的に相手がどう動くかを予測する、という作業である>と規定する。
インテリジェンスには、相手に察知されず情報を入手するポジティブ・インテリジェンスを中心に考えるが、いくら良質の情報を入手しても、それが近未来分析に役立たないならば意味がない。地味ではあるが、知力を最大限に駆使する分析がインテリジェンス活動の主軸なのである。分析対象の内在的論理をつかんでいれば、公開情報だけでも、対象の意図を十分につかむことができる。この技法をオシント(公開情報インテリジェンス)と呼ぶが、その際にも分析能力が死活的に重要になる。
分析能力を鍛える上で、上田氏はマインドマップの重要性を説く。
<拡散的思考法と収束的思考法の併用といえる方法に、トニー・ブザンが考案したマインドマップがある。この手法では、1枚の紙の中央に表現したい概念やキーワードを書き、そこから連想されるキーワードを放射状に書いていく。
マインドマップの優れている点は第一にグループでなく個人でも行えること、第二に拡散的思考法と収束的思考法を併用して仮説の立案と検証を同時に行えるという点だ。そのためこの手法は、アイデア連想に限らずノートの作成やプレゼンテーションのツールとして用いられることが多い>
評者も情勢分析に関する原稿を書く前にノートにマインドマップを記す。連想した言葉を結びつけていくうちに、拡散的思考と収束的思考がマインドマップ上で均衡する。このときにいままでおぼろげだった構造がはっきり見えてくる。思考力を鍛える上でも、マインドマップを描くことは有益だ。この作業はビジネスにも応用可能である。
★★★(選者・佐藤優)
(2019年10月23日脱稿)