「データで読み解く「生涯独身」社会」天野馨南子著/宝島社新書
日本社会が抱える最大の問題は、少子化だろう。国力の低下も、年金制度の崩壊も、少子化が最大の原因になっている。政府もそのことを分かっていて、幼児教育の無償化や働き方改革の推進など、子育て支援に躍起になっている。その施策が悪いことだとは思わないが、それで出生数は回復しないと私は考えている。本書で著者も指摘しているように、少子化の本当の原因は、女性が産む子どもの数が減ったことではなく、結婚をしなくなったことにあるからだ。結婚をすれば、いまでも平均2人の子どもが生まれている。問題は、未婚率が急上昇し、男性の場合、50歳でも未婚の「生涯未婚率」が4分の1に達していることなのだ。
なぜ結婚しなくなったのか。私は、所得格差が拡大して、低所得男性が女性から見捨てられたからだと確信していた。実際、複数の調査で、若年男性の年収と既婚率は、見事な相関を示している。年収1000万円台の男性の8割が結婚している一方で、非正社員の平均である年収100万円台の男性は、6人に1人しか結婚していないのだ。
著者も、女性が結婚相手に期待する年収が、非現実的に高いことをデータで示している。しかし著者は、非婚化の真因は、男性の低年収ではなく、「好きになる力」が減ったことだと言う。実際に結婚したカップルをみると、希望年収に届かない男性との結婚が多数実現しているからだ。
それでは、なぜ、好きになる力、すなわち恋愛の実行力が落ちたのか。著者は、過干渉の親が、同居する子どもに居心地のよい環境を与えているからだと言う。実に斬新な見方だ。確かに、仲良し親子で、家の居心地がよすぎることで、子どもがいつまでたっても結婚しない事例を、私も複数知っている。
著者の分析が正しいとすれば、日本の少子化を食い止めるには、若年男の自立を促し、「肉食系」に変身させればよいということになる。
果たして、低年収の男でも、積極的に攻めれば、結婚できるようになるのか。私は、社会実験をしてみる価値が十分あると思う。少子化を止められるかどうかは、日本の経済社会の未来を大きく左右するからだ。
★★半(選者・森永卓郎)