「愛と欲望の三国志」箱崎みどり著/講談社現代新書
著者は、ニッポン放送の現役アナウンサーで、私は数年前、一緒に番組に出ていたことがある。「不思議な人だな」とそのとき感じていた。アナウンサーというのは多かれ少なかれ、「私を見て」というオーラを出している。ところが彼女にはそれがまったくない。もちろん、ニュース原稿はきちんと読めるし、的確なコメントもできる。ただ、自分が目立ちたいという欲求をまったく感じさせないのだ。「一体、この人は何がしたいのだろう」というそのときの疑問が本書で一気に解消した。
著者はオタク、それも筋金入りの三国志オタクだったのだ。
正直言うと、私は世界史が苦手だ。大学入試直前の模擬試験で偏差値33を取ったくらいだ。ところが、三国志だけは、少しだけ知っている。1990年代に三国志のパソコンゲームに夢中になったからだ。ただ、主人公の劉備が仲間の関羽とともに、全国制覇のために諸葛孔明のアドバイスを受けながら、ライバルの曹操らと戦うということや、行き詰まったら放浪の旅に出ればよいというくらいの知識しかない。史実がどうなっていたのかはまったく知らなかったのだ。
本書にはごく簡単な三国志のあらすじも書かれているが、それはごく一部で、三国志の物語が、なぜいつの時代もずっと愛され続けてきたのかという分析を著者自身が三国志ファンになった体験も含めて語っていく。もちろん、三国志が愛されるのは、誰も勝者にならないという、日本人に一番受け入れやすいストーリーになっていることや、登場人物のキャラクター設定がしっかりしているということにもあるのだが、著者の分析はそれにとどまらない。
著名人たちが、三国志をどのように捉えてきたのか、三国志を扱った歌舞伎や浄瑠璃、三国志の川柳、絵画、お祭り、そして、三国志グッズまできっちり追いかける。ここら辺は、一度好きになると、トコトン追い求めてしまうオタク気質そのものだ。そして、最後には三国志最大のミステリーキャラである諸葛孔明の分析がたっぷり盛り込まれている。私と同じように、ゲームで三国志に親しんだ人は多いと思うが、本書を読めば、もっと楽しめること請け合いだ。 ★★半(選者・森永卓郎)