「上級国民/下級国民」橘玲著/小学館新書/820円+税
膨大なデータを基に“不都合な真実”を明かす著者の橘氏はこれまでに「言ってはいけない 残酷すぎる真実」(新潮新書)や「もっと言ってはいけない」(同)などのベストセラーを発刊してきたが、今回も同様のテーマで、ますます絶望的なこの世の真実を明かしていく。
「上級国民」という言葉は今年の流行語大賞のトップ10に入る可能性があり、「ネット流行語大賞」は多分取るだろう。
この言葉自体は、もともと2015年の「東京五輪エンブレム騒動」で誕生したネットスラングだが、今年4月に発生した池袋暴走死亡事故で当時87歳の元官僚が逮捕されなかったことから「上級国民さまへの忖度」などとされネット上で爆発的に使われた。その後発生した神戸市での市バス運転手が起こした8人死傷事故では運転手がすぐに逮捕されたため、「下級国民はすぐ逮捕される」とより注目を集めた。
本書では「上級国民」と「下級国民」の分断をはじめとし、さまざまな階層の格差がなぜ発生するのか、ネットを含めたこの世でいかにしてバトルが発生するのか、などを多数のデータと文献や識者の論などから読み解いていく。
多くの人がうすうす感じていたことを説得力ある形でビシッと指摘をし、読者を諦めの境地に至らせる。いや、自分自身を「上級国民」と認識している人物であれば「私は幸せな人生を送っているんだなァ」と満足感を得られるかもしれない。
そうした面はありつつも、本書の優れた点は「なぜこのような社会現象が発生するのか?」という疑問に対して、明確に答えてくれる点だ。
ネットではフェミニスト叩きが過熱しているが、その理由についてはこう説明する。
〈なぜこんなことになるのか。それは「男一般」ではなく、「非モテの男」が差別されているからです。(中略)非モテの男も、男社会のヒエラルキーの最下層に追いやられ、存在そのものを全面的に否定されるような過酷な状況に追いやられています。そんな「非モテの男たち(下級国民)」にとって「モテの男(上級国民)」とすべての女は自分たちを抑圧する“敵”にしか感じられないのです〉
他にもテーマは「学歴」「ひきこもり」「パラサイト・シングル」「幸福度」「絶望のあまり死ぬ白人」など多岐にわたる。ヤフーニュースのコメント欄は罵詈雑言にあふれているが、その理由まで解説する現状把握に適した新書だ。 ★★★(選者・中川淳一郎)