「昭和モダン建築巡礼完全版1945―64」磯達雄・文/宮沢洋・イラスト 日経アーキテクチュア編
1945年から64年までの激動の20年間に国内で竣工して今も残る(取材時)名建築を巡り、写真とイラストで紹介するビジュアルリポート。
太平洋戦争さなかの1945年に竣工した「岩国徴古館」は、旧岩国藩主吉川家から寄贈された歴史資料や美術工芸品を収蔵・展示する歴史博物館。佐藤武夫が設計した建物は、戦時下の統制を受け、建材に溶鉱炉から出る廃材をリサイクルした鉱滓ブロックなどが使われている。
列柱が配された外観は当時の世相を思わせる軍国主義的な薫りさえ感じるが、真っ白なアーチと末広がりの柱で構成された展示室の空間は、大胆かつ繊細で今も新鮮に感じるという。
イラストを担当した宮沢氏は、同館を「“優等生”のフリをした“いたずらっ子”のような建築」と評する。
以後、年代順に55の名建築を取り上げる。
建築ジャーナリストの磯氏が、建物の由来や建築史的な位置づけ、そして建物にまつわる物語を写真を添えて紹介するパートに続き、宮沢氏がイラストで建物の細部や設計者らのエピソードなどを補完。
硬と軟の名コンビによって、それぞれの建物の魅力が伝えられる。
終戦直後の「復興期」(1945~55年)、住宅不足の解消に取り組んだ建築家たちは、やがて「東京日仏学院」(現アンスティチュ・フランセ東京=1951年竣工=坂倉準三建築研究所)や、「志摩観光ホテル旧館」(1951年竣工=村野・森建築事務所)など文化施設や商業施設をはじめ、平和への祈りを込めたモニュメントなどの設計にも携わり仕事の幅を広げていく。
朝鮮戦争による特需を経て、高度経済成長期に突入すると、民間のビルが大量に建てられる一方で、自治体の庁舎建築ブームが起こる。建築技術とともに材料や工法なども次々と進歩する中、建築家は日本建築の伝統と現代のモダニズムをどのように融合するかという問題に直面する。
この「葛藤期」(1956~60年)に竣工した京都の「都ホテル佳水園」(現ウェスティン都ホテル京都佳水園=1959年竣工=村野藤吾)はモダニズムと数寄屋建築の美しさを統合した傑作として名高いそうだ。
そして建築界の俊英たちが設計したオリンピックの競技施設が完成した「飛躍期」(1961~64年)に日本の建築は世界の最先端に追いつく。
オリンピックで来日した各国の人々から称賛された「国立代々木競技場」をはじめ、「東京カテドラル聖マリア大聖堂」「香川県立体育館」など、64年に竣工した丹下健三設計の一連の建物群は圧巻。
「戦前の建築は大切にされるのに、戦後の建築はあっさりと壊されてしまう」との危機感から始まった雑誌連載の単行本化。現に収録された建築の中にも既に解体されてしまったものもあり、往時の姿を伝える貴重な記録でもある。
(日経BP 2700円+税)