「子どもと一緒に覚えたい貝殻の名前」東海大学海洋学部・海洋科学博物館/監修 加古川利彦/絵
海水浴の折などに浜辺で拾った貝殻は、子どもにとっては大切な宝物。いや、大人でも見つけると、つい拾わずにはいられない不思議な魅力を貝殻は持っている。
生物の死骸なのに、そんなことはみじんも感じさせず、昆虫標本のような特別な処理も必要なく、拾ったときから半永久的に同じ状態を保つ管理の手軽さもコレクションに向いている。ひとつの貝殻から想像が膨らみ、子どもの科学への扉を開く可能性もある。
本書は、美しいけれども、珍しいものではなく、誰でもが運が良ければ普通に拾える貝殻だけを集めて解説した図鑑。
ニスで仕上げたような美しい光沢があり、色柄も豊富なため、貝殻を収集する人に最も人気があるのが「タカラガイ」。
宝貝と書くように宝物と同じ価値があるとされ、仲間の「キイロダカラ」はアフリカでは何世紀もお金として使われていたほどだ。
タカラガイ科には多くの種類があり、焦げ茶色に雪のような白い模様が浮かぶ「ハナマルユキ」などは比較的拾いやすいが、日本三名宝のひとつといわれる「テラマチダカラ」などになると、希少性が高く何十万円という高値がつくこともあるという。
不規則な色と形が特徴の「ナミマガシワ」は、岩に張り付いて、その岩の形に育つ。二枚貝なのだが、拾えるのは上側の方だけ。岩にくっついている方の貝殻は非常にもろく個体が死んだときに岩に残るか、波にもまれて粉々になってしまうからだ。
他にも巻き貝なのに巻かずに伸びたり、途中でねじれたり、ぐにゃぐにゃ曲がっているヘンな形の「オオヘビガイ」や、幸運を呼ぶアイテムとして女性に人気の「サクラガイ」、傘の形をして7~10本の筋があり、上から見ると「鵜」の足に似ているから「ウノアシ」、巻き貝なのに巻き切らず淡い模様が美しい「ビワガイ」、美しい色とは裏腹に海面に漂いながら猛毒を持つクラゲを捕食する「ルリガイ」など30種以上を網羅。
中には、食卓でもおなじみのアサリやサザエも取り上げられる。何の変哲もないアサリも、よく見てみると、その模様は千差万別でデザイン性が高い。指紋同様、すべて違うのかもしれないが、その真相は誰にも分からない。すべてのアサリを比較した人はいないからだ。
複雑な形が子どもに人気のサザエは、あのでこぼことした角がシンボルだが、実は角がないサザエもいる。それは種の違いやオス・メスの違いなどではなく環境の違いだといわれているそうだ。そもそも海の巻き貝の9割は右巻きで、淡水になると左巻きが多くなるそうだが、なぜそうなるのかはまだ分からず、意外にも貝類は不思議がいっぱい。そんな興味をそそる解説も充実しており、子どもたちと読むのにはぴったり。
夏休みに拾った貝殻を取り出して、本書を片手に子どもたちと調べてみよう。
(マイルスタッフ 1900円+税)