「LAST PARADISE 精霊の踊る森嶋田忠写真・著
自然写真家の巨匠が、写真を撮り始めたころから憧れの鳥だったという極楽鳥をテーマにした作品集。
この世のものとは思えぬほど美しい羽を持つことからその名がつけられたという極楽鳥は、ニューギニア島と周辺の島々、そしてオーストラリア北東部の一部だけに生息する極めて珍しい鳥で、全部で42種が確認されている。
26年前からパプアニューギニアに通い、撮影を続けてきた成果を凝縮した本書には、同国に生息する32種からタイプの違う代表的な13種と、極楽鳥に劣らぬ美しい羽を持つ庭師鳥3種を網羅する。
パプアニューギニアの内陸部、4000メートル級の山々が連なるハイランド地方の幻想的な雲霧林をすみかとする「オジロオナガフウチョウ」(写真①)のオスは、最長1メートルにもなる白く長い尾羽を持つ。その頭と胸元ではグリーンとブルーのメタリックカラーが絶妙なグラデーションを作り出し、全体を覆う黒い羽毛には一閃の赤い稲妻が走る。夕暮れ、ねぐらに向かって尾羽をたゆらせながら飛ぶ優美な姿は、一幅の絵のようだ。
極楽鳥は、その容姿の美しさと共に、求愛ダンスでも知られる。中でも「タンビカンザシフウチョウ」のそれは、著者いわく「森の道化師」と呼ぶにふさわしいほどの面白さだという。頭には6本のかんざし状の飾り羽、大きな蝶ネクタイのように広げた胸の飾り羽、そして翼をスカート状に広げステップを踏む姿には、どこからか音楽でも聞こえてきそうな軽快さと明るさがある。
数が少なく幻の極楽鳥と呼ばれる「アオフウチョウ」(写真②)の求愛ダンスの撮影にも世界で初めて成功。その名の通り、青を基調とした体に白いくちばしを持つ美しいオスが、木の枝に逆さにぶら下がり、激しく踊る一部始終が撮影されている。
その他、耳のあたりからプラスチック状の飾り羽が伸びている「フキナガシフウチョウ」や、パプアニューギニアの国鳥となっている「アカカザリフウチョウ」、極楽鳥の中では最小だが美しさが際立ち、圧巻の求愛ダンスを見せる「ヒヨクドリ」(写真③)、お尻から生えた針金状の12本の飾り羽でメスの顔をなでる「ジュウニセンフウチョウ」など、どれも個性的な美しさとユニークな生態で、まるで競い合っているかのようだ。
現地の人々が極楽鳥を精霊とあがめているのも納得。彼らはその精霊の力を体内に取り込むかのように、儀式のときには極楽鳥の飾り羽を身につけ、派手なペインティングを全身に施して踊る。
一方の庭師鳥は、求愛のために建物を作る鳥。その生態がほとんど知られておらず、長年、求愛行動についても謎とされていた「オウゴンフウチョウモドキ」(表紙)は、朱色と黄色の羽毛を持つ衝撃的な美しさだ。その求愛ダンスも見事にカメラに収まる。
人々が立ち入ることがない深い原始の森の奥深くで繰り広げられている鳥たちのドラマを記録した貴重な作品集だ。
(講談社 3600円+税)