「長襦袢の魅力」岩田ちえ子、中村圭子、中川春香編著
和装がハレの日の装いになって久しく、長襦袢と耳にして、特に若い男性はそれがどんなものかイメージするのが難しいのではなかろうか。長襦袢は、着物の下に着るもので、現在は和装時の下着のイメージが強いが、かつては色・柄ともに華やかなものが主流で、最初から見せることを前提とした日本独自の衣類である。
着ている人が動くたびに、袖や裾などの着物の開口部から見え隠れする美しい色柄の調和が楽しめ、平安時代の伝統の名残のような奥ゆかしい長襦袢の色と柄の重なりは、昭和の時代まで大切な装いの要として残っていた。
本書はそんな長襦袢の魅力を多くの図版で伝えるビジュアルガイド。
まずは、明治から昭和にかけて描かれた美人画の女性たちの装いから、当時の粋な長襦袢の着こなしやコーディネートを紹介する。
画家・高畠華宵の「紅梅白梅」という作品に描かれた女性は、鮮やかなブルーを基調とした羽織と薄紫のグラデーションの着物に淡いピンク地の長襦袢を合わせている(写真①)。その色彩感覚に加え、着物と襦袢の袖丈の違いが生み出す曲線、絶妙な柄の組み合わせがモデルの女性の魅力を一層引き立てている。
当時の女性たちは、着物と長襦袢の独自の色柄の重なりのセンスを競い合い、オシャレに磨きをかけたという。
続いて当時着られたアンティーク長襦袢の現物の数々を紹介しながら解説する。
日本人には馴染み深い菊や桜、牡丹をはじめ、まさに百花繚乱のごとく、さまざまな花をモチーフにした鮮やかなものから、月や花火、香道で用いる記号を文様化した「源氏香」、生活に密着した花笠やうちわ、お祭りの風景に登場する人物など、ありとあらゆるものが絵柄として用いられている。
中には、人々の関心が外国へと高まっていた時代を象徴するかのように、地球儀柄の気球が世界の都市名が書かれた間を縫うように飛ぶ世界旅行をテーマにしたものまである(写真②)。
もともとは遊女たちが流行させ、その後、庶民の晴れ着の下にへと広まっていた長襦袢。遊女たちが部屋着兼ナイトドレスとしてまとった長襦袢は艶やかな「緋色」で、何ともエロチックだ。
女性のものと思われがちな長襦袢のオシャレだが、男性たちのそれも凝ったものが多数残されている。
江戸時代後期、奢侈禁止令の影響で庶民は男女とも地味な着物の下に長襦袢でオシャレを競ったという。特に男たちは羽織の「額裏」と並んで長襦袢を趣味的な楽しみの対象としたそうだ(写真③)。豪華な兜や火消しの纏が一面に描かれたものや、脱がなければ見えない背面だけに鷹や能面、竜などの絵模様が描かれたものなど、江戸っ子たちの歯切れの良い啖呵が聞こえてきそうだ。
日本のオシャレ文化の神髄のひとつといってもいい着物の下に広がる「秘密の花園」の魅力に改めて気づかせてくれる一冊だ。
(河出書房新社 1900円+税)