「箱庭の巡礼者たち」恒川光太郎著
100年に1度といわれる豪雨が降った日、母は行方不明になった。家の近くに流されてきた泥だらけのガラクタの中から、僕は大きな黒い箱を拾った。数日後の満月の晩、箱をのぞいてみると、中に森や城や町がある箱庭ができていた。その翌日、母の遺体が見つかった。
母の葬儀の後、箱を見ると、箱庭の町には母によく似た女性がいた。森では6カ月しか生きられない竜が生まれた。中学1年のとき、同級生の絵影久美に箱を見せた。父には「空き箱」にしか見えなかったのに、絵影は「あ、竜」と言った。そして「この箱庭世界、入れるよね」と。
だが、行けても戻れない、たぶん。(「箱のなかの王国」)
ほかに、家出した母を追って炭鉱町を出た姉弟の物語などファンタジー6編を収録。
(KADOKAWA 1870円)