「中国人が日本を買う理由」中島恵氏

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「中国人が日本を買う理由」中島恵著

 今年の2月、若い中国人女性が沖縄の無人島を購入したとして、話題になったことは記憶に新しい。近年、中国人による日本国内の不動産の購入が伝えられると、不安を抱く人が増えている。

 一体、彼らはなぜ日本を買うのか--。

 本書は、多くの中国人への丁寧な取材を通し、日本買いの現状や背景など探った一冊。日頃目にする報道とは違う、新たな視点で中国人の本音を捉え、彼らの日本に対する思いと共に、中国の現状も浮かび上がらせた。

 日本の不動産が中国人に人気なのは、まず、その買いやすさにある。

「北京や上海に比べ価格が安く、また外国人の不動産購入にあまり規制がないため購入しやすいんです。たとえば、日本では7000万円で、東京・豊洲にあるタワーマンションに58平方メートルの1室が購入できますが、上海の中心部では25平方メートルのワンルームしか買えないといいます」

 こう聞くと、中国の富裕層にとって日本の不動産はお得感満載で、やはり投資目的か、と感じてしまうが、決してそれだけではない。

 昨年から都内に住む20代の中国人男性は、著者の取材にこう答える。

「上海のロックダウンを目の当たりにしてこのまま中国にいたらどうなるんだろうと怖くなり日本への移住を決めました。今は日本で落ち着いた暮らしができています」

 また、中国人不動産会社の担当者は日本がおすすめの理由を「子どもが1人で外出しても安全で食事が安くておいしいし、空気もいい。政治的、社会的に安定しており、理想的な移住先」と語る。

「彼らにとって日本の最大の魅力は、安定した社会、安心して暮らせるということで、取材中、繰り返し聞きました。政治に振り回されずに安心して暮らすことは、中国人にとっては当たり前ではないんですね。また彼らの話から、実は日本の文化やおもてなしへの憧憬などが“日本買い”の背景にあることも見えてきました」

 たとえば、日本の教育やしつけに寄せる関心も高いという。中国では昨年しつけに関する法律“家庭教育推進法”なるものが施行された。

「自分で片付けをする、規則正しい生活リズムをつくるようになどを法律で定めています。なぜそんなことを法律に? と思うでしょうが、日本では自然にできていることが、中国では国が決めなければならないほどできていない家庭が多く、不良行為など社会問題化してきたからです」

 中国では、勉強を重視するあまり、子どもに手伝いをさせると疲れて勉強ができなくなると考える親も多い。勉強重視のエリート教育なのだ。

「日本の教育は中国人から見れば、全人格的教育なんですね。日本の学校生活では、掃除や給食当番、部活動を通して、基本的な生活態度や共同作業が身につく。家庭でも子どもに家事を手伝わせることは当たり前です。日本の教育は自立した人間を育てるとして、日本への留学を推進する団体もあるくらいです」

 一方、本書には耳の痛いことも書かれている。日本のおもてなしの質が低下しているのではないか、という問いかけだ。

「家具店を訪れ、店員に説明をしてもらったが、その日は購入しないとわかった途端に態度が変わり、驚いたなどの声がありました」

 他にも日本医療への信頼、趣味としてのピアノなど、意外にも好意的な中国人の視点と本音からは、日本社会のありようがよく見える。

「中国人の話に耳を傾けてみれば、客観的に日本の価値を再認識し、自分たちの暮らしを見直してみる機会にもなるのではないでしょうか」

(日経BP 990円)

▽中島恵(なかじま・けい)ジャーナリスト。1967年山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。「中国人エリートは日本人をこう見る」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人のお金の使い道」など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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