「Z世代のネオホームレス」青柳貴哉氏
「Z世代のネオホームレス」青柳貴哉著
ホームレスと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、リストラされて職を失った中高年男性の姿や、ゴミを拾って小銭を稼ぐ路上生活者だろうか。しかし昨今、そんなイメージとはまったく異なる、Z世代と呼ばれる10~20代の新しいタイプのホームレスが増えているという。
「実家があり、家族がいて、お金も持っている。けれど家に帰らず、マンガ喫茶などで生活するホームレス。そんな若者たちが確実に存在します。それがホームレスと言えるのかと感じる方もいるかもしれませんが、ホームレスの実像は時代とともに変わってきています」
著者はYouTubeにチャンネルを開設し、多くのホームレスに取材を敢行してきた。今年3月までに130本ほどの動画を投稿しており、本書では特に反響の大きかった4人のZ世代ホームレスについて、追加インタビューなどを掲載。日本が抱える社会問題に警鐘を鳴らす渾身のルポルタージュとなっている。
「近ごろ“トー横キッズ”という呼び名を耳にすることがあると思います。新宿の一角に集まる若者たちのことですが、彼らの中にもネオホームレスがいて、話を聞いてみると共通して聞こえてくるのが『死にたい』という言葉です。そんな傷と悩みを仲間たちと共有し合いながら、彼らは暮らしていました」
例えば、著者のチャンネルでもっとも視聴され、本書の筆頭に紹介されているモカさん(仮名・当時15歳)。初めて歌舞伎町に来たのは小学4年生の頃で、当時からほぼ学校には行っておらず、実父からの性的虐待など壮絶な家庭環境にあったことがつづられている。
「モカさんはいわゆる“パパ活”で生計を立てており、平均月60万円は稼いでいることなど、こちらがうろたえてしまうような話もしてくれました。一方で違和感を覚えたのが、その雰囲気です。彼女の会話は理路整然としていて落ち着いており、路上で出会う“パパ”を『声をかけてくださる方』という表現もしていました。15歳にしてパパ活を仕事として捉え、そのプロ意識や言葉遣いもホームレス生活の中で身につけたのだとしたら、それこそが異常な状況ではないでしょうか」
一見すると何の問題もない家庭環境に見えるにもかかわらず、ホームレス生活を選択した若者もいる。ユイト君(仮名.17歳)の章では、母親へのインタビューも掲載。大人から見れば「いい母親ではないか」と思われる愛情も、子どもにとっては人格を否定されるような過干渉となり、ユイト君いわく「帰る家がない」という状況に陥る事実を突きつけられる。
「私の動画のコメントには、親は何をやっているんだ、行政が何とかしろ、という書き込みが多数寄せられます。しかし、Z世代がホームレスになる背景には、親には親の、子には子の複雑な事情があり、表面だけを見て責任をはっきりさせることは不可能に近いと感じています」
取材を続けながら、「実感として、できることは何もない」と無力感にさいなまれる著者。しかし令和の今、ホームレスという生き方を選んでしまう若者がいることを知ってもらうことが、取材を続ける意義だと話す。
目を背けてはいけない、日本のリアルな姿だ。 (KADOKAWA 1650円)
▽青柳貴哉(あおやぎ・たかや) 1981年生まれ。福岡県出身。お笑い芸人として2017年まで吉本興業に所属。YouTubeでホームレスの実態に迫るドキュメント番組「アットホームチャンネル」を運営。延べ100人以上のホームレスを取材。チャンネル登録者数は15万人を超えている。