「和菓子」中村肇著
「和菓子」中村肇著
京都では、宮中や公家、寺社、茶家などに納める「上菓子」として、特別な祝いや祭りのための意匠が施された和菓子が独自の発達を遂げた。
観賞する楽しみと味わう楽しみを兼ね備えた、「京菓子」と呼ばれるこうした和菓子は、菓子職人が素材を駆使して季節感を表現。色彩から造形、そして命名まで、どこを取っても美への思いが凝縮されている。
本書は、京都生まれの著者が、「京都人から見た京都」をテーマにつづるブログで取り上げた老舗の和菓子に、関連する京都の点景を添えて集成したビジュアルブック。
季節感を大切にする京菓子は、それぞれが一年のうちのわずかな期間しか店頭に並ぶことがなく、出合いはまさに一期一会。
お正月といえば味噌あんとゴボウを餅皮で包んだ「花びら餅」。茶道の稽古始めの「初釜」に欠かせないこの生菓子は、もともとは宮中で行われていた長寿を願う新年の行事「歯固めの儀式」で食されていた料理を簡略化したもので、500年以上も前からあるという。
「袖止め」は、薄く橙色に染めた「こなし」(白こしあんと薄力粉を混ぜ蒸し、砂糖水を加え練り上げたもの)を板状にして赤こしあんを巻いたもの。袖止めは、江戸時代に元服した人が振り袖を縮め普通の長さにしたことをいい、女性の成人にも用いる言葉だそうだ。
ほかにも、紅梅や福寿草など春の到来を告げる花を模したものや、節分の題材にしたものなど春の和菓子にはじまり、「冬木立」「寒椿」など冬の和菓子まで、季節の移り変わりと、季節の行事を表現した和菓子の数々を網羅。
見ているだけでその技とセンス、そしてデザイン力に感服してしまう。まさに京菓子による歳時記のような一冊。解説の英訳も併記されているので訪日客への土産にも最適。
(河出書房新社 2420円)