「正義の行方」木寺一孝著/講談社(選者・プチ鹿島)
「正義の行方」木寺一孝著/講談社
27日から公開されたドキュメンタリー映画「正義の行方」は多くの方に見て欲しい。「面白い」からだ。本書は映画の書籍版である。その内容から面白いと表現していいか正直戸惑った。でも「正義の行方」は時間を忘れるほどひきつけられるし、鑑賞後や読後に考えさせられるという意味で「面白い」と言うしかないのだ。10人いたら10人の感想があるに違いない。この“それぞれの考え方”は本作の肝でもある。
1992年、福岡・飯塚市で2人の女児が殺害され、山中に遺体が遺棄された「飯塚事件」。容疑者は否認を続けたが、DNA型鑑定が大きな決め手となった。死刑判決から、わずか2年後に死刑が執行された。しかし、後に警察のDNA型鑑定は証拠能力を事実上失わせることになったのだ。まさか、である。
ただ、この作品は飯塚事件が冤罪かどうかを問うものではない。警察、弁護士、新聞記者たちの3者にはそれぞれが信じる「真実」と「正義」があった。本作は改めて取材し、立場の違う人たちの「正義の行方」を描いているのだ。
私が特に心を奪われたのが、西日本新聞の記者たちだ。悲惨な事件の解決を願い報道するのは地元紙の正義でもある。全国紙に負けられないという意地もある。当時「サツ回り」をしていた記者は、DNA型鑑定によって容疑者が浮上した極秘情報をつかんだ。警察情報をいかに仕入れるかが特ダネ(正義)だ。しかし、鑑定結果が揺らぐ現在、当時の報道を悔いていた。
あれから四半世紀ほど経って重職に就いた記者の一人は2018年から「検証 飯塚事件」を企画した(計83回)。彼らの正義の行方であり、メディアとしての希望だと思った。そうそう、ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」をご覧になった方には「正義の行方」もおすすめしたい。ドラマのモデルとなった複数の事件に飯塚事件も含まれていたかもしれないが、どちらの作品にも共通したテーマを感じた。ぜひ見て読んで欲しい。
さて今回で私のミシュラン担当は終わります。ショートリリーフにお付き合いありがとうございました。 ★★★(選者・プチ鹿島)