「仏教の未来年表」鵜飼秀徳著/PHP選書(選者:佐藤優)

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だから戒名が高額化したのか

「仏教の未来年表」鵜飼秀徳著/PHP選書

 日本の仏教が抱えている問題点をわかりやすく指摘した好著だ。評者が鵜飼秀徳氏と知り合ったのは、同氏が経済誌の記者兼編集者をつとめていたときだ。鵜飼氏が浄土宗の僧侶の家庭で育ったという背景があり、宗教の内在的論理をよく理解している稀有なジャーナリストだった。現在は京都・正覚寺の住職と作家の二足のわらじを履いて活躍している。

 仏教式の葬儀では高額の戒名に多くの人が頭を悩ませる。鵜飼氏によると戒名の高額化は比較的最近の現象だということだ。

<なぜ、戒名が切り売りされているのか。理由のひとつに、かつてバブル期に芸能人の戒名が高額で取り引きされ、その金額が報じられたことで、「戒名の販売」が一般化したことが挙げられる。/(中略)ここで、あえて言いたい。戒名は、販売対象では決してないということ。ネットなどで戒名の料金を明示することも、やってはいけないことだ>

 戒名は販売対象でないという鵜飼氏の指摘はその通りだ。仏教でもキリスト教でも、安易な金儲けの手段を得るようになると、その宗教が持つ内的生命を失うことになる。

 現在、先進国では世俗化が進み、宗教がなくても人間は生きていくことができるという傾向が強まっているが、いずれ逆転現象が起きるというのが鵜飼氏と筆者に共通する見方だ。人間は死を免れることができない。死に真剣に向かい合う人は宗教から逃れることができなくなる。例えば、樹木葬が世俗化時代の新たな宗教だ。

<植物に囲まれた墓「樹木葬」の需要が、急拡大している。/10年ほど前までは樹木葬を手がける宗教法人や霊園は、数えるほどであった。しかし、現在では全国で1000カ所をゆうに超える。その人気ぶりは、一般的な墓や納骨堂以上だ。樹木葬には、終活に対して思い描く「理想」が、凝縮されている。樹木葬の多くが期限付きの永代供養で、規模と費用が抑えられる。さらに死後の自然回帰を想起させるようなイメージとデザインが、とりわけ女性にウケているとみられる>

 評者も死後は家族やペットたちと一緒に樹木の下でゆっくり休みたいと思っている。

 ★★★

(2024年11月14日脱稿)

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