形容詞の危険性…安倍晋三「美しい国」とは何だったのか
作家志望の青年に、「形容詞には気をつけな」とメッセージを送った。初めてそれらしきアドバイスを送ったかもしれない。講釈垂れられる物書きではないが、わたしが小説を書くとき唯一気をつけていることだ。それを間違ってしまった方は、安倍晋三前内閣総理大臣だと思う。
「おまえごときがなにを」とお叱りを受けそうだが、以前この連載コラムに書いたように、わたしは安倍さんが通っていた学校の後輩にあたる。といっても高校2年で素行不良により退学になっているので、正確には「途中まで後輩」なのだが。そのようなこともあって、やはり安倍さんは気になっていた。
第1次政権。当時の安倍総理は声高らかに言った。
「美しい国、日本」と。
これがすべてだと思う。国のリーダーとして、目指すべき道を「美しい」と表現するのは危うい。形容詞というのは便利だ。「たのしい」「おいしい」「かわいい」どれもそれっぽく相手に伝わる。が、実を伴わないと悲劇的な言葉だ。なにが、どう、美しいのか。安倍先輩の政治は、結局それが最後まで読者に伝わらずに終わった小説に思う。