尾上菊之助も松本幸四郎も…芸の継承は「父から子」という単線だけではない
武部源蔵は片岡愛之助。菊之助との共演機会がそう多くないせいか、探り合いをしている感じがあり、緊張感があり、それが松王丸と源蔵の距離感にシンクロしている。
■サラリーマンの悲哀が浮き立つ「菊之助」の松王丸
松本幸四郎も昼夜とも、父・松本白鸚が演じたことのない役だ。『御浜御殿綱豊卿』では富森助右衛門、綱豊は仁左衛門。
この組み合わせは5回目。幸四郎はすでに綱豊も演じているが、もう一回、仁左衛門から学ぶための共演なのだろうか、助右衛門に戻った。綱豊が教えたのに助右衛門は完全には理解していない。この関係が仁左衛門と幸四郎に重なって見え、その意味では名コンビである。
『伊勢音頭恋寝刃』で、幸四郎が演じる福岡貢も、仁左衛門の当たり役のひとつだ。
菊之助も幸四郎も、父親にそっくりという容姿ではないのを逆手にとり、父のやっていない役にも挑んでいる。孝太郎も仁左衛門に似ていないので、女形の道を選んだ。今月の歌舞伎座は、芸の継承は、「父から子」という単線だけではないという見本だ。
その一方、ストレートな父から子への継承として、4代目中村雀右衛門の13回忌追善として、5代目の『傾城道成寺』もある。
(作家・中川右介)