寺島しのぶの歌舞伎初舞台「声のトーン」には違和感も…出演する昼の部はほぼ満席
10月の歌舞伎座は昼の部はほぼ満席、夜の部はかなり空いており、客足では明暗を分けた。昼にしか出ていないのは、尾上松緑と寺島しのぶ。多分、昼は寺島しのぶを見ようという客が詰めかけたのだろう。
寺島が演じるのは『文七元結物語』。三遊亭圓朝の人情噺『文七元結』をもとにした歌舞伎は、代々の菊五郎が演じてきたが、それを山田洋次が脚色・演出して『文七元結物語』とした。
基本のストーリーは同じだが、かなり脚色し、キャラクターの造形も異なる。衣装は従来の歌舞伎と同じ傾向だが、舞台装置は現代演劇風に簡素というか半抽象とでもいうもの。山田洋次自身、「歌舞伎座の舞台面は横に長く、あの広さは途方に暮れます」と語っていたが、結局、あの舞台を使いこなせず、舞台の半分くらいの空間で芝居が展開するので、窮屈になった。
寺島しのぶは、夫役の中村獅童との掛け合いでは自然なのだが、他の女形(つまり男)との会話になると、声のトーンがひとりだけ高く、目立ってしまう。だが、これは最初から分かっていることで、寺島の責任ではない。今後も、女優を出す場合、ひとりなのか、複数出したほうがいいのか、そこから考える必要があるだろう。
獅童はまたも、博打好きな愚かな男の役。菊五郎と比べては気の毒とは思うが、単なる「バカ」にしか見えない。もっとも、そういう演技設計なら成功している。