新型コロナウイルスは致死率9%のSARSと何が違うのか?
多くの人は新型コロナウイルスを「ちょっと重いインフルエンザ」とイメージしているようだが間違いだ。実は致死率9・6%の「重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス」と同じコロナウイルスで、遺伝子もかなり似ている。どのくらいか? 国立遺伝学研究所博士研究員、ハーバード大学客員研究員などを経て東海大学医学部分子生命科学講師を務める中川草・理学博士に聞いた。
「それぞれのウイルスを構成する遺伝子の類似度はおよそ7~9割です。ただし、新型コロナウイルスはSARSウイルスが進化したものではありません。両者は共通する祖先から分岐して別々に進化したウイルスで、親戚のような存在です。お互いを比較して類似度が最も低い遺伝子のひとつがS遺伝子です」
ウイルスの突起を形成しているスパイクタンパク質(Sタンパク質)には、感染先の細胞の表面にある受容体と結合してウイルス外膜と細胞膜の融合を媒介する役割がある。S遺伝子はそのSタンパク質の性格を決めて、それを忠実につくり出す設計図が書かれている。
「ウイルスがヒトの細胞に感染するためには、ヒトの細胞が持つタンパク質分解酵素によって、Sタンパク質が切断される必要があります。新型コロナウイルスは、SARSウイルスとは違うタンパク質分解酵素でも切断できると報告されています。そのため、新型コロナウイルスは、下気道だけでなく上気道でも感染・増幅が可能となったため、軽症でも他の人に感染させられる人が多くなって世界中に広がったのではないか、と言われています。加えて、感染が広がった要因としては、ヒトの受容体とより強く相互作用できるようになったことや、その他にも宿主の細胞に侵入するための入り口(受容体)が、ACE2と呼ばれるタンパク質以外にも活用できるようになった可能性も推察されています」