狂犬病は致死率100%なのに日本の集団免疫は決壊寸前…12人噛みつけた四国犬はワクチン未接種
ワクチン接種率はギリギリ7割、沖縄は52%
狂犬病を抑え込む要が狂犬病ワクチンだが、日本の接種率はこのところ低下傾向を示している。厚労省が年度ごとにまとめる「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等」によると、22年度末のワクチン接種率は70.9%。集団免疫獲得に必要な7割ラインをわずかに上回っているに過ぎない。危うい状況で、都道府県によるバラツキも大きい。接種率トップの山形は88.4%だが、最下位の沖縄は52.4%と7割ラインを大きく下回っている。東京や大阪、福岡など飼育頭数が多い都市部も60%台で、集団免疫は“決壊状態”かもしれない。
「今回の報道を受けて伊勢崎市の飼い主が批判されていますが、決して人ごとではありません。残念ながら狂犬病ワクチンを受けていない飼い主はあちこちにいます。厚労省のデータはあくまでも登録された頭数に対するワクチン接種率で、そもそも登録されていない犬もかなりの数に上るため、狂犬病の撲滅に必要な7割ラインはすでに下回っている恐れもあります」
保健所への犬の登録とワクチン接種は法律で定められた義務なのに、徹底されていないのには理由がある。60年以上、犬の発症例がないことから、「狂犬病ワクチンは必要なし」という誤解が広がり、飼い主の自己判断で接種しない犬が増えているのが1つ。2つ目は、2年前の動物愛護管理法で導入されたマイクロチップによる影響だという。
「狂犬病予防法による監督官庁は保健所をとりまとめる厚労省ですが、マイクロチップの管理は環境省で、友人から譲り受けた犬などは、マイクロチップ装着が努力義務。将来的にはチップで全頭数を把握できるのでしょうが、チップの装着が任意であるがゆえに、絶対に必要な厚労省の登録もパスする人がいて、頭数把握がより困難になっているのです」
こうした不安な現状に加え、狂犬病ウイルスを持つアライグマやコウモリが密輸されている。国内に狂犬病ウイルスが侵入している可能性はゼロではないだろう。
■ヒトが発症すると神経症状から呼吸困難へ
では、狂犬病のリスクがありそうな犬などに噛まれたらどうするか?
「海外で高リスクの犬に噛まれたら、消毒後すぐに医療機関で狂犬病の血清を噛まれた部位より脳の近くで注射です。疑いのない犬や国内では、傷口の消毒後、破傷風などの血清を注射することもあります」
狂犬病が広がる国では、感染後に複数回のワクチン接種で発症を抑える治療も行われている。前述のWHOのデータによると、その数は推計1500万人。世界では、かなりの人がワクチンで九死に一生を得ている。輸入症例では、これが行われなかったようだ。
狂犬病ウイルスに感染した場合、潜伏期間はヒトが1~3カ月で、犬が2週間~2カ月ほど。ヒトからヒトへの感染は通常なく、感染者から感染が拡大することはないというから、ウイルスへの感染が疑われるときは、とにかく早く受診して潜伏期間のうちに適切な治療を受けることが不可欠だ。
発症するとどんな症状なのか。まずは犬だ。犬が狂犬病ウイルスに感染すると、興奮状態で攻撃的になって頻繁に噛んだり徘徊したりする狂騒型と、全身にマヒが広がって歩けなくなって水や食べ物をのみ込めなくなるマヒ型の症状を見せるという。ただ、2つを明確に分けることは難しい。最終的に昏睡状態となって死亡する。
前述したように感染した犬に目や口をなめられたヒトが感染することもある。感染が広がっているアジアやアフリカなどでおかしな犬に出くわしたら、軽い気持ちで触れてはいけない。
そういう犬をはじめ動物に噛まれたヒトは、どうなるのか。噛まれた部位の痛みやかゆみのほか、発熱や食欲不振が見られ、次第に神経症状が現れる。神経症状とは、強い不安感や一時的な錯乱、幻覚、マヒのほか、水を見ると筋肉がケイレンする恐水症状などで、さらに進行すると呼吸障害で昏睡となって亡くなるという。
繰り返すが感染して発症すると、致死率はほぼ100%。感染が広がる国に行く場合、感染してからでは遅い。事前の備えが必要だ。
「狂犬病が広がるエリアを訪れるときは、渡航前に狂犬病ワクチンを接種しておくことが一番。その上で、動物には触れないような生活を心掛けるのです」
登録もワクチン接種もしていない飼い主は、“ウチの子に限って”と軽い気持ちでスルーしているのかもしれないが、そんな飼い主が膨れ上がって、狂犬病に対する集団免疫を失ったらどうなるか。甘い考えは改めるべきだろう。