狂犬病は致死率100%なのに日本の集団免疫は決壊寸前…12人噛みつけた四国犬はワクチン未接種
群馬県伊勢崎市で小学生を含む男女12人を噛みつけた四国犬が市に登録されていない上、狂犬病予防ワクチンを接種していないことが分かった。じつはいま、日本の狂犬病対策はかなり危うい状況だという。
「狂犬病は、ヒトを含むすべての哺乳類が感染する人獣共通感染症で、ヒトも動物も感染するとほぼ100%亡くなります。とても怖い病気です。狂犬病ウイルスは、感染した動物に噛まれて唾液とともに侵入するのが一般的で、場合によっては傷口のほか目や唇などの粘膜をなめられる濃厚接触でも感染することがあります」
こう言うのは、カーター動物病院院長の片岡重明氏だ。
厄介な病気だけに、日本では1950年に狂犬病予防法が制定され、生後91日以上の飼い犬の保健所登録と毎年1回の狂犬病予防ワクチン接種が義務づけられている。この運用が徹底され、狂犬病を発症した犬は56年の6頭を最後に発生していない(57年に猫の発症例アリ)。感染したヒトは2020年に1人いるが、フィリピンで犬に噛まれて帰国後に発病し、死亡した。06年に死亡した2人と同じで海外で噛まれて帰国後に発病した輸入症例だ。
ところが、伊勢崎市の飼い主(62)は狂犬病予防法を無視。飼育する四国犬7頭のうち、市に登録していたのは3頭のみ。その3頭の予防接種記録は10年前で、9年前から接種を受けた記録がない。残りの4頭は未登録で、ワクチンは一度も受けていない。今回、12人を噛んだ犬は、その危険な4頭のうちの1頭だった。
狂犬病予防法違反は20万円以下の罰金で、群馬県警は狂犬病予防法違反のほか、過失傷害の疑いもあるとみて捜査している。
■コウモリやアライグマ、キツネもウイルスを媒介
60年以上、国内での犬の狂犬病発生ゼロは、島国の利点と水際対策が役立っているが、海外ではいまなお狂犬病が蔓延している国がある。今回のようなことが旅先で起こらないとは限らないばかりか、国内の予防体制は決壊寸前だ。万が一のとき、どうするか。片岡氏に聞いた。
狂犬病は病名に「犬」とあるように日本では、犬が感染源だが、狂犬病ウイルスを媒介する動物は犬だけではない。
「コウモリやアライグマ、スカンク、コヨーテ、キツネ、マングース、オオカミ、ジャッカルなども、このウイルスを媒介します」
世界保健機関(WHO)がまとめた世界の狂犬病発生状況(2017年版)によると、年間の死亡者数は5万9000人で、そのうちアジアは3万5000人、アフリカは2万1000人と推計される。中でもインド7437人、エチオピア4169人、ナイジェリア3501人、中国2635人、パキスタン1623人、バングラデシュ1192人、インドネシア1113人などが突出している。
「WHOのガイドラインによると、狂犬病を抑え込むには犬全体の70%以上に予防ワクチンを接種する必要があります。これを達成できているのは世界的にほとんどなく、日本のほか、豪州とニュージーランド、アイスランド、スウェーデン、ノルウェーの一部、アイルランド、英国の一部のみです。旅行や仕事などで海外に出かけるときは、狂犬病リスクを頭に入れておくことが大切でしょう」