プロが傾倒「ドライブライン」ブームの裏で思わぬ副作用が
肘の故障リスク
一方で、球団や選手にはドライブラインを正しく使うことが求められると、神事氏は言う。
「投球動作の過程で、上腕(二の腕)の一部にエネルギー伝達のロスが生じる箇所がある。重い球を使ってその箇所に負荷をかけることでロスを防ぎ、体幹からの力をより伝達しやすくなる。それが球速アップにもつながるとみられていますが、問題は肘へのリスクです。肘はちょうつがい関節といって、一つの方向にしか回らない。しかし、重い球を使うと、肘が本来動かない方向に曲げる力が働く。それによって内側側副靱帯に負荷がかかり、痛める原因になっていると考えられます。日本の投手は、小学時代から投げすぎによって肘の緩みのような症状を持っている人が結構いる。緩んでいるところに大きな負荷をかけると、その分だけ靱帯に影響を及ぼす。裂隙といって、超音波による診断で左右の肘のゆるみが同じかどうかを検査するなど、障害のリスクが低いと判断された上で取り組むなど、個々の選手の状態に合わせて取り入れた方がいいと思います」
日本の指導者の体たらくを差し引いても、米国ではやっているからといって、安易に飛びつくのは危険だということだ。
それでいうと、「筋トレ」も同じことがいえるだろう。メジャーリーガーの多くはガタイが大きく体がムキムキ。最速169キロ左腕のチャップマン(ヤンキース)が数年前にSNSで肉体美を披露して話題になったが、日本でも球速や球威アップのために、ボディービルダーのように体を大きくする投手は少なくない。
運動生理学が専門で、東海大名誉教授の田中誠一氏は「特に投手にとっては筋肉をただ大きくすることはマイナスになりかねない」とこう続ける。
「かつて、脇腹にも筋肉をつけたことでフォームのバランスが崩れ、肩や肘に負担がかかって故障した投手がいました。体重が90キロでも100キロでも、大事なのはあくまで投げ方。筋力で言えば、体幹と足腰を鍛えることが最優先です。特に投手は筋肉の持久力と瞬発力を重視すべき。先発投手が回を追うごとに球速が落ち、制球が乱れるのは足の筋持久力が衰え、ステップが乱れるから。瞬発力で言うと、同じ100キロのバーベルを上げられるにしても、3秒かかるのと1秒で上げるのとでは、エネルギーを伝達する能力が違う。いずれにせよ、筋肉を太くするだけのウエートトレーニングでは意味がありません」
■トップ選手は流出する
米国に右へ倣えなのは、試合のルールも同様だ。1月に行われた12球団監督会議では、MLBが今季から採用する「ワンポイント起用の禁止」が議題に挙がった。試合時間の短縮を目的としているが、申告敬遠やコリジョンルールなど、MLBの動きに追従するだけの日本球界のことだ。いずれ導入されることは間違いないだろう。
かつて「松井秀喜キラー」と呼ばれた阪神の遠山奬志のような投手は、居場所を失いかねない。継投の妙やベンチの戦略も二の次になってしまう。
日本の野球界は今も昔も、米国がやっていることに妄信しがちだ。自ら日本野球の地位をおとしめているといっても過言ではない。昨オフは筒香(DeNA→レイズ)ら3人がメジャー移籍し、今オフは巨人の菅野らもメジャー挑戦する可能性がある。ただでさえ日本とメジャーには年俸などの待遇が大きく違うというのに、これでは日本のトップ選手のメジャー流出が加速するのも当然だろう。