ロッテ佐々木をどう育てる 大谷やダル育てたコーチに聞く
コントロールは悪くない
今年のプロ野球界で最も注目されている新人といえば、ロッテの佐々木朗希(18=大船渡)だろう。高校時代は甲子園と無縁ながら、163キロの剛速球を投げてスカウトの度肝を抜いた。キャンプインを前に日本ハム時代のダルビッシュ(カブス)や大谷(エンゼルス)を指導したロッテの吉井理人投手コーチ(54)にその将来性や育成方針について聞いた。
◇ ◇ ◇
――こんなタイプのピッチャーに成長するのではないかというイメージがあれば。
「まだ、そこまでイメージはできていませんが、日本球界、もしかしたら大リーグに行ってもメジャーを代表するピッチャーになる可能性はあると思います」
――ダルと大谷を指導した経験のある吉井コーチから見て、彼らよりもすごくなりそうだとか。
「ダルビッシュはすごいですもんね。大谷はまだ未完成なので。投げているボールはすごいですけど、ピッチャーとしては成長途上ですよね。ですから何とも言えませんが、ダルビッシュ以上になって欲しいし、それだけのポテンシャルはあるんじゃないかと想像はしています」
――大谷はパワーピッチャー、ダルは速い球を投げるけどコントロールピッチャーと話していましたが、佐々木はどういう?
「これから、見ていかなければわかりませんが、あの投球フォームを見たら、コントロールは悪くないと思う。まとまっていて、いいコントロールで投げられるのではないかなと。あのスピードがあって、そこそこのコントロールがあれば、やっぱり、ずばぬけたピッチャーになるんじゃないかと思います」
――コントロールがいいと思う根拠は。
「フォームがまとまっているので。足を高く上げた後にバランスが崩れないというのもあるし、股関節の柔らかい子は自分の重心をうまくコントロールできると。実際に見ないとわかりませんけど、コントロールはいいと思いますよ」
登校しながら基礎体力作り
――ダルのデビューは1年目、6月15日の広島戦。大谷は5月23日。佐々木がブルペンに入って、実戦で投げる準備が整った後のプランは。
「デビューは二軍からになると思います。いきなり一軍の公式戦で投げるということは、ちょっと乱暴かなと。二軍でそこそこ投げられるというのが確認できたら、一軍で投げてもいいのではないかと思っています。大谷はファームで20イニング? 先発ピッチャーがオープン戦でつくっていくと2イニングくらいから始めて、だいたいそれくらいになるので、そういうイメージですね。二軍で20イニングくらい投げてから一軍で投げられたらいいかなと」
――スカウトには1年間、みっちり体を鍛えた方がいいという声もあったが、今年中にデビューできそうか。
「もちろん、基礎体力はつける必要がありますけど、試合に投げながらやった方が絶対にいいと思う。例えば二軍で先発して、中6日じゃなくて、倍の中12日くらいあけて、初めの1週間は体力トレーニング、そこから1週間は投げるための調整をしてゲーム……そういうのを繰り返しても十分、基礎体力はつくと思います」
――一軍に上げるのはどういうタイミング?
「投げる実力が一軍で通用するというのがわかっているのであれば、二軍でやらなくてもいいですよね。一軍で投げて、1年目に中6日はまだきついと思うので、間隔をあければ、その間に基礎体力をつけることと試合の調整は十分、できると思うので」
――投球自体が一軍で通用すれば、必ずしも基礎体力と調整を二軍でやる必要はない。
「そう思うんですけど、これは監督の判断になってきます。どちらにしても基礎体力がつくのは時間がかかりますから。プロのローテーション投手、つまり1週間に1回、ちゃんと7回くらいまで投げられるようになるのは基礎体力がついてからで、だいたい3年くらいかかります。ただ、一軍で投げられるだけの実力があれば、単発で投げられる可能性はあると思います。僕なんかは実力がなかったので、試合で投げると初回ノックアウトとかっていうのを3年くらい繰り返していました。体力はついてきても、実力がなかった(苦笑)。実力があれば、体力がなくても、こちらがうまく調整すれば、体力をアップさせながら一軍の戦力になると思っています」
――そのタイミングはいつごろ。
「それは監督と相談していくことなので」
――ダルや大谷のデビューの仕方は参考になる?
■「田中将大は参考にならない」
「なると思いますし、なるでしょうね。(田中)マー君は参考になりません。いきなり普通に投げて、1年目に180イニングくらい投げています(186回3分の1)。化け物です」
――大谷はプロ入り後も体が成長を続けていて、それだけ慎重になりましたが佐々木も?
「もちろんです」
「我慢するのも修行です」
ロッテの吉井理人投手コーチは佐々木朗希の将来性について「ダル以上になるポテンシャルはあると想像している」と言った。163キロの速球を投げ、なおかつコントロールも悪くなさそうというのがその根拠、「メジャーを代表するピッチャーになる可能性はあると思う」とも。ケタ外れの潜在能力を、首脳陣はどうやって開花させるつもりなのか。佐々木の育成プランについて聞いた。
◇ ◇ ◇
――キャンプは一軍スタートです。
「あれだけの選手なので一軍で調整した方がいいんじゃないかと。二軍の方がメディアが多いとなると、他の選手のモチベーションが下がってしまうと思いますし」
――現時点での育成の青写真は。
「まず、高校の時の絶好調時の感覚に戻してほしいなと思っています。そうなると、まだ、そんなに実戦的な練習はしません。絶好調時の感覚を戻すためのドリルや練習をやっていくうちに、これならイケるなという時がくると思うんです。その時に初めて、ゲームはこの辺にしようというのを考えようと思っています。初めにゲーム、この辺で投げさせようと決めてしまったら……。高校生ですし、本人もどんな感覚になったかというのはあまりわかってないと思うんです。にもかかわらず、実戦を入れてしまうと、まだ、体もできていないので、バラバラになってしまうケースがある。そこは、こっちが、しっかりと見極めてプランを立てていきたいと考えています。これは自分の経験でもあります。高卒でプロに入って、いきなり周りの先輩たちと同じように投げて、調子を崩してしまったんです。その後、本当に自分で投げているなという感覚が戻ったのは1年半くらい後でした。そのロスは選手にとって損な時間です。そういう高卒選手は結構、多いと思いますよ」
――自主トレ中はまったくブルペンに入れませんでしたが、キャンプに行ってから、だいたいこれくらいでというメドは。
「見てみないとわからないんですけど、ある程度、30~40メートルくらいの強い、40メートルが遠投と言えるかわかりませんけど、遠投でまとまった、しっくりした感じがあれば、ブルペンに入ってもいいのかなと。キャッチャーを座らせなくてもいいし、正規の距離じゃなくてもいいので、マウンドの傾斜で練習することは、キャンプ中にあるかもしれません。それでも15日以降だとは思いますけど」
――15日以降だとして、その時、一軍にいれば沖縄本島に入ってからになります。
「そうなりますね。ただ、(一、二軍)どっちで調整するかは、これからみんなで相談して決めようと思っています」
――高校生ルーキーでも一軍にいれば早く投げたいと言いませんか。
「2010年、(日本ハム)ファイターズで二軍のコーチをやった時に、高卒ルーキーが2人いたんですけど、この子たちはキャンプ初日から20日間くらい、遠投と(ブルペンではなく)平地でのピッチングしかやらせなかった。そしたら、早く投げたい、早く投げたいと、ずっと言っていました(笑い)。そこを我慢するのは修行です」
――佐々木はどうでしょう。
「たぶん(投げたいと)言ってくると思います。どんな子でも、やっぱり野球選手ですし、投げたくなりますから。周りが投げているので」
――一軍は初日からガンガン投げるピッチャーもいます。間近で見ることになって、我慢できますか? 気が急いたりしませんか?
「(気が急いたり)すると思います。けど、それも修行なんです。(ブルペンで投げる前に)やることがあると。そこも覚えさせていかないと。すっ飛ばしていろいろなことをやってしまうとおかしくなるので。基本的に教えないというスタイルでコーチングをしていますけど、そういうところは、しっかり教えていかないと」
なぜ163キロが投げられるのか?
そもそも佐々木を全国区にしたのは昨年の春先にマークした163キロの剛速球だが、なぜ、そんなに速い球を投げられるのか。インタビューの3回目は佐々木の肉体の秘密に迫った――。
◇ ◇ ◇
――佐々木の自主トレを見た印象から。
「ウワサで聞いているよりは、体がしっかりしているなと。新人合同自主トレで走っているところと、遠目ですけど、キャッチボールしているところは見ました。ただ、遠くからチラッと見ただけなので、あくまでも第一印象です」
■スティックピクチャーによる動作解析
――ビデオとか、彼についての知識は入れていると思いますけど。
「いくつかの試合のビデオで投球フォームは見ました。あとは、大船渡の監督が筑波大出身。筑波大の川村卓准教授が佐々木の投球フォームの動作解析のデータをもっていたので、それをいただきました」
――ビデオやデータを見た感想は。
「すごいピッチャーだと思いましたよ。ビデオを見て投げているボールは、自分の高校時代と比べるのもあれなんですけど、全然、レベルが違う。高卒ルーキーも何人か見たことがありますけど、その中でも、まっすぐはすごくいいものがある。スティックピクチャーといって、腕や足を線で表した動作解析の資料をもらったんですけど、それを見た感じも、これだったら球も速いなというフォームをしていました。かなりの実力の持ち主という印象です」
――163キロを投げられるのはなぜでしょう。
「動作解析の分析による限りは、いわゆる一般的に言うトップ、腕を後ろに引いて肘が肩の高さまで上がってきたときの肩のしなりがすごくある。これは球が速いピッチャーの特徴なんです。あと、特徴は左足を上げたときの膝の高さ。あれだけ高く足を上げているのにバランスを保っているというのは、バランス感覚が良いのと、股関節が柔らかいのかなと。まだ、体の弱さからか、うまくできていない箇所もいくつかあるんですけど、にもかかわらず、あれだけの球を投げるというのは、かなり体をうまく使っているのでしょうね」
■高校生によくみられる症状
――こういうところを直したらもっと良くなるということですか。
「たぶん、自然に直ると思うんですけど、体幹とか下半身がまだ、しっかりしていないピッチャーに見られる特徴が佐々木にも出ています。よく言われる体の開きが早いとか、上半身が突っ込むとか、そういうことです。高校生によく見られる症状です。ただ、何も言わなくても、そのうち直ると思う。心配するような、欠点というほどのものではありません」
――体力がついてくれば自然と解消されると。
「そうですね。体が出来上がる前にフォームをいじってしまうと、ややこしいことになってしまう。本人の感覚も変わってしまうだろうし。そこは見守ろうと思っています」
(おわり)
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