人跡未踏の探検本特集
「ナイル川を下ってみないか」野田知佑著
管理された社会を抜け出し、大自然のなかで自由を満喫するなら断然、川遊びがいいらしい。例えば、カナダ、アラスカを流れるユーコン川に行き、カヌーにテントや折り畳み式の机と椅子と本と酒を積んで、相棒の犬と一緒にゆっくりと川を下る。川を下った先の小さな集落には図書館があって、ここは旅の者にも快く本を貸してくれる。また集落の食料雑貨店前には大きな段ボールがいくつか置いてあり、カヌーで通りかかった人は読み終わった本をそこに入れ、かわりに読みたい本を持っていく。
本書は、モンベルクラブの会員誌に20年にわたって著者が書き続けてきた、そんな川旅の様子をまとめたエッセー集だ。
高給が保証された都会での生活を放り出してアザラシ猟の生活に戻るアラスカの先住民、白人に早く降伏したおかげで生き延びることができたニューメキシコのナバホ族、どこに行っても監視の目から逃れられなかった1965年のモスクワ、住居も食べ物もほとんどタダで天国のように見えた70年代のタヒチなど、海外で遭遇した印象的な体験がつづられている。さらには四万十川や吉野川など日本の美しい川との思い出や、子どもたちに川に潜り魚を捕って食べる方法を教える「川の学校」、川を管理しようとするあまりに日本で起きた環境破壊についても語られる。
自由に生きることの素晴らしさと厳しさを示しながら、君も荒野をひとりで進んでいく生き方をしてみないかと、読み手に迫ってくる。(ネイチュアエンタープライズ 980円+税)