人跡未踏の探検本特集
「洞窟ばか」吉田勝次著
日常から離れて冒険の旅に繰り出したいという思いに駆られたら、道なき道を切り開く冒険本で“アームチェア探検”とまいろう。今回は、常軌を逸したサバイバルスキルとともに、我が道を行くハラハラドキドキの4つの冒険本をご案内! 洞窟、川、ロシア極東、東日本縦断のどのルートがお好み?
まだ誰も行ったことのない知らない場所に行ってみたい――。ならば宇宙かと思い立ってNASAにメールしたものの相手にされなかった揚げ句、ふと足元に広がる地下空間に気づいた男がいた。それが「洞窟ばか」(扶桑社 1400円+税)の著者・吉田勝次氏だ。
有り余るエネルギーを持てあまして喧嘩に明け暮れていた10代に高校を中退。工事現場でのアルバイトからスタートして有限会社を設立し、当初は稼ぐことに夢中になっていた。だが、あるときふとむなしくなって山岳会に入会。雪山訓練や岩登りにチャレンジすることに。高所恐怖症でちっとも楽しくないのだが、意地になって続けていたときに出合ったのが「洞窟探検」という新ジャンルだった。
暗闇の中を、ヘルメットについたキャップライトの明かりだけを頼りに這うようにして進んでいくと、思いがけない素晴らしい地下空間に出合う。その衝撃から洞窟探検が病みつきになった著者は、以来、岩手県の安家洞、三重県の霧穴、鹿児島県・沖永良部島の銀水洞などの国内の洞窟はもちろん、ラオス、メキシコ、イラン、チリ、スペインなど、世界中の洞窟に足を踏み入れていく。
洞窟探検と登山の違いは、目的地がどこなのか全く見通しがつかないことだ。壮大な洞窟だと思って意気込んで入ったらすぐに地上に出てしまったり、逆にたいしたことがなさそうだと思っていたら何年経っても未知のルートに出合ってしまったりする。さらに、まだ誰も知らない洞窟を発見しようとすれば、洞窟の入り口を探すだけで数年経ってしまうこともザラなのだ。洞窟内で寝泊まりするノウハウ、ケガをしないための予防策やケガをしてしまったときの対処法など、必要に迫られて身に付けていくうち、いつのまにか洞窟探検家としての地位を確立してしまった著者。工事現場で会得した土木に関するスキルや、趣味の登山やスキューバダイビングでの経験のすべてが、「洞窟探検家」という生き方に集約されていくのだから、人生に無駄がない。
巻頭には、地下にすごい空間があることをみんなに知ってほしいという一心で撮影された、素晴らしい洞窟写真も収録。この本が売れたら写真集を出すそうなので、ぜひとも応援してあげよう。