著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

ええやん、法華経。さすが何千年のベストセラー

公開日: 更新日:

「大阪弁訳 法華経」大阪弁訳「法華経」制作委員会著/データハウス 1500円+税

 大阪弁の法華経というだけで衝撃なのに、表紙には通天閣と張りぼてのフグ、サングラスでパンチパーマの陽気なおっさんは、なんとお釈迦様だ。お経の中身が真面目で退屈だから、大阪弁のノリで押し切る作戦か。

 ところが、それは大変な誤解だと気づく。大阪弁は抜きにしても、とんでもなくおもしろいのである。魔法世界と学園ものを、努力や友情で味付けて煮込んだ少年漫画の面白さが、ここに詰まっているのだ。

 物語は、現状に満足して精進しない「修行をこじらせた弟子たち」に、お釈迦様が「仏の知恵はアンタらの頭ではわからへんのや!」と一発かますシーンからはじまる。

「わしら、お釈迦様の子や。話してくれまへんか?」と、教えを乞う弟子に、例え話を用いて優しく菩薩道を説いていくのだが、途中、次々と登場する特別ゲストが紅白の大トリ並みにダイナミックだ。海底の竜宮から巨大な蓮華に乗って駆けつける文殊菩薩、地面から超絶スケールの宝塔とともに湧き出た多宝如来、裂けた地面からはキンキラキンの地涌菩薩が顔を出す。

 心配性のお釈迦様は自分が姿を消した後、世の中が乱れ、修行や布教にいそしむ弟子が迫害されないかと憂う。しかし、不退転の菩薩が「忍耐を仕込んだボディスーツを心に着込んで、命を捨てる覚悟で法華経を説きまっせ」と男気を見せると、「修行者に嫌がらせをする奴は、昔は鬼で知られた札付きのアタイが頭を七つに裂いたるで」と鬼子母神たちが息巻く。そんな頼りがいのある弟子たちに「ええやん! その功徳はごっつ、大きいで!」と目を細めるお釈迦様。

 法華経は、お釈迦様の終活と生前葬のドキュメンタリーであるが、「欲に任せて貪るとかえって苦しみを呼ぶんや」「人生は縁によって変わるんやで」など、弟子の能力や個性に合わせて与えた格言や例え話は、そのまま私たちの仕事や人生のヒントになる。ええやん、法華経。さすが、何千年も続くベストセラー。世代も時代も超えた教えがここにある。

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾