「ユダヤ人を命がけで救った人びと」キャロル・リトナー、サンドラ・マイヤーズ編 食野雅子訳
人間はここまで残虐非道になれるのか。第2次世界大戦中、ナチス政権下で起きたホロコーストは、暗澹たる歴史的事実を突きつける。しかし、そうした時代にも光はあった。フランス、オランダ、ポーランド、デンマーク、ブルガリア、ノルウェー……。ヨーロッパ各国のごく普通の市民の中に、迫害されるユダヤ人に命がけで手を差し伸べた人びとが少なからずいたのである。
彼らはユダヤ人を自宅にかくまい、あるいは隠れ家に連れて行き、国境を越える手助けをした。見つかったら自分や家族が殺されかねない状況にありながら、知恵を絞り、細心の注意を払って、できる限りのことをした。その人たちの多くは戦後、「人として当たり前のことをしただけ」「そうしないではいられなかった」と語っている。
救出されたユダヤ人、救出に関わった人からの詳細な聞き取り調査をもとに編まれたのが本書。「アメリカ合衆国ホロコースト記念委員会」が1984年に行った国際会議のための基礎資料が基になっている。
ユダヤ人を助けた人びとの中には、勇気ある個人もいればナチスに抗するレジスタンスのメンバーもいた。見て見ぬふりをしたドイツ人士官もいた。フランスのル・シャンボン村では、プロテスタントの牧師をリーダーに、村人が一丸となって大勢のユダヤ人をかくまい、救った。
一方で、ナチスに扇動された協力者、手をこまねいていた傍観者がいた。こちらのほうが圧倒的に多かった。そうでなければ、ホロコーストのような大規模な民族迫害は起こり得なかっただろう。
ユダヤ人を助けた人と、何もしなかった人の違いはどこからくるのか。もし、非人道的行為に直面したとき、自分は、人間として勇気ある行動ができるだろうか。貴重な証言の数々は、重い問いを投げかけながら、生き方の指針を示してくれる。
(河出書房新社 2200円+税)