「栗本薫と中島梓」里中高志著

公開日: 更新日:

 文字の読み書きを覚えるよりも早く、回らぬ舌で物語を語ろうとしていた女の子は、天性の想像力に導かれて作家になった。そして、豹頭人身の戦士を主人公とする世界最長の物語「グイン・サーガ」を生み出した。30年間で130巻、数千人の登場人物が架空の国で繰り広げる壮大なヒロイックファンタジーはどのように書かれたのか。作者はどんな人物だったのか。「グイン・サーガ」のファンでもあるジャーナリストが、多くの関係者を取材して、複雑な人物像に迫った。

 栗本薫、またの名を中島梓、本名・山田純代は1953年、東京・葛飾区に生まれた。子供の頃からご飯を食べるように文章を書き、高校時代は文芸部長。早稲田大学時代には、ノートに手書きした小説「真夜中の天使」の原稿を親友に見せている。男性同士の性愛をテーマにした衝撃作が、すでに書かれていたのだ。

 卒業後の無職生活中に「文学の輪郭」で群像新人賞を受賞し、新進評論家、中島梓が誕生する。そのすぐ後に、青春ミステリー「ぼくらの時代」で江戸川乱歩賞を受賞、作家としての歩みを加速した。

 あふれんばかりの才能は書くことだけに収まり切らず、舞台の脚本・演出、作詞・作曲、ライブ活動と、エネルギッシュに表現の場を広げていく。その尋常ではない才女ぶりと多面性が、夫をはじめとする関係者たちの証言から浮かび上がってくる。

 執筆中は創作の世界に入り込み、表情まで変わってしまう。一日の執筆量は50枚が目安で、執筆時間はわずか2、3時間。好き嫌いがはっきりしていて、時に情緒不安定。人に食べさせるのが好きで料理が上手。ピアノも歌もうまかった。何にでも全力で取り組んだ。

 書きたいことがいつも頭の中にひしめいていた天性の物語作家は2009年、がんのため永眠。《グイン・サーガ》は新たな語り部に引き継がれ、彼女が創造した物語世界は今も生き続けている。

(早川書房 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…