「時が止まった部屋」小島美羽著
何の前知識もなくページを開いたら、ドールハウスの写真集かと思うかもしれない。しかし、その一枚一枚をよく見ると、写っているミニチュアの部屋は夢いっぱいのドールハウスとは対照的に、どこか見るものを不穏な気分にさせる。
著者は、孤独死などで主を失った部屋を専門とする特殊清掃・遺品整理の仕事に従事しており、ミニチュアは、かつて携わった依頼現場の部屋を再現したものだという。
本書では、これまでに作成したミニチュアの中から8点を紹介しながら、孤独死の現実を伝える。
孤独死の現場で最も多いケースは、独身で一人暮らしの50、60代の男性。こうした中高年男性は、共通して布団を中心に生活をしており、何らかの持病を抱え、布団の上で最期を迎えることが多い。ミニチュアもそうした部屋を再現。布団から手の届く範囲にあらゆる生活用品が置かれ、弁当の空き容器や酒瓶など、布団の周りには大量のごみが散乱しているが、寝たり座ったりするスペースだけはぽっかりと空いている。
遺体から漏れ出た体液で茶色く変色した布団の上の人の形のシミまで忠実に再現する。
遺品整理や特殊清掃を依頼してくる遺族が、長年故人と疎遠だった場合は、ほとんどが相続放棄をする。
中には、なぜ自分が費用を負担しなければならないのかと、憤りを著者らにぶつけてくる人もいるという。
一方で、幼いときに両親が離婚して、顔も覚えていない父親の部屋の清掃を依頼してきた女性は「最期ぐらい血のつながったわたしが見届けたい」と胸の内の思いを打ち明ける。
その女性に重ね合わせるように著者も、孤独死寸前で亡くなった父の人生を思う。
また40代の女性が孤独死していた、ごみ屋敷化したマンションの一室をモデルに再現した部屋を紹介する章では、女性たちがごみをため込んでしまう切実な事情が明かされる。
著者が故人について知り得るのは、遺族や大家さんから聞いた話と、そこに残された「部屋」と「物」だけ。でもそれらは「雄弁に故人の人生を語っているようでもある」という。
他にも、壁にガムテープで「ゴメン」との文字が残されていた若者が自殺した部屋、ペットを残して孤独死した人の部屋、家族の思い出の品が大量に残された「遺品の多い部屋」、そして高価そうな家具に囲まれ何不自由ない生活を送っていたと思われる高級マンションの一室など。
ミニチュアは、これまでに現場で目にしてきた部屋の特徴を凝縮しており、特定の現場ではないという。それらの写真と共に語られるさまざまなケースが胸を打つ。
著者は、部屋を片付けた後のわずかな時間、持参した仏花と線香で見知らぬ故人の死を悼み、丁寧に弔う。誰もが免れない自らの死、家族との関係について考える機会を与えてくれるおすすめ本。
(原書房 1400円+税)