中東世界の顔を知る
「女たちの中東 ロジャヴァの革命」M・クナップほか著 山梨彰訳
日本人にとってわかりにくい異文化世界が中東。その知られざる顔を見よう。
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シリア北部から北東部にかけて広がるロジャヴァ。もとはクルド人とアラブ人が共存する地方で、ほかにアルメニア人、アラム人、カルディア人、トルクメン人、チェチェン人、チェルケス人、ナワール人も暮らしている。本書は日本で事実上初めての本格的なロジャヴァの紹介だ。
2012年、オレンジ革命の波がシリアにも押し寄せたとき、ロジャヴァでは女性の権利拡張に取り組んできたクルディスタン労働者党が中心になって、革命の前線に女性を加える動きが強まった。ロジャヴァには議会でも法廷でも「二重指導原則」がある。指導的な地位は2人体制で、片方は必ず女性でなければならないのだ。
報道の世界でも「家父長制の覇権」を乗り越えるために女性ジャーナリストが重用される。それでも全部の女性が自立しているわけではない。多くは伝統的な家父長制の中で暮らしており、経済的な依存度も相変わらず高い。それでも人民防衛隊の女性部隊員たちの士気は高く、「民主」と「自治」をめざす未来への建設と防衛にしっかりと参加している。
著者はクルド人支援にたずさわるドイツの歴史家や人類学者らだ。
(青土社 3200円+税)
「黒い同盟」宮田律著
いまアラブ世界きっての「悪童」といえばサウジアラビアのムハンマド皇太子。つい先日もOPEC(石油輸出国機構)の国際交渉で原油価格の大幅下落を承知しながら踏み切ったことでコロナ騒ぎの国際社会を仰天させた。典型的なお坊ちゃま独裁者だが、それでもトランプ米大統領と大の仲良し。
しかし今回の措置は米シェールオイル相場を痛めつけるもの。それもロシアの思う通りにというので世界は驚いた。あわてたトランプは皇太子に電話して説得を試みたという。
本書は米、サウジ、そしてイスラエルの3者が組んだ「反イラン枢軸」の実態に光を当てたイスラム政治学の専門家による解説。国際的な話題になった反体制派のサウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ記者暗殺事件からはじめ、先述の3者の野合を「非神聖同盟」と痛烈に皮肉っている。
(平凡社 900円+税)
「イスラエルとユダヤ人」佐藤優著
元外務省の主任分析官にしてインテリジェンスの専門家でもある著者。本書では冒頭から「なぜ私はイスラエルが好きなのか」と大上段にふりかぶる。
答えは2つ。第1は元職業外交官としてイスラエルとの関係強化が日本の国益につながると考えるから。第2は日本とイスラエルは政治・経済体制が等しく、イスラエルの諜報機関「モサド」に日本は学ぶものが多いから。特にイスラエルにはロシアから移民したユダヤ人が多く、彼らとの関係を築けば北方領土問題にも有効だからだ。
しかし外務省のアラブ専門家養成法は感情的なイスラエル嫌いを育てるものでしかなく、著者はそれを危惧するという。2007年からの雑誌連載をまとめたものだけに部分的に情報の古いところもあるが、著者の主張は一貫している。
(KADOKAWA 1000円+税)