緊急事態宣言解除

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「コロナの時代の僕ら」パオロ・ジョルダーノ著 飯田亮介訳

 宣言は解除されたが、安心できるのか? リスクは全く減ってないのではないか!?



 今年2月、イタリア北部でエピデミック(局地的大流行)の急拡大が報告され、それまでは遠い中国の田舎の話と高をくくっていた西洋社会が浮足立った。そんな中、イタリア人小説家が書いて世界的なベストセラーとなったのが本書だ。もともと大学で素粒子物理学を専攻した著者は「理系男子」。感染症の爆発的な拡大も「指数関数的変化」として予測されたもの。

 しかしマスコミは「懸念すべき」「劇的」状況として不安を煽る。ウイルス感染はビリヤードの玉がぶつかるような激しさと連鎖反応がつきもので、当たり前の話と考えないといけないのだ。それでも世間は、危険は「同じ程度で」比例して増加するのだと考えたがる。

 それを著者は車の衝突事故にたとえる。衝突の損傷はスピードに比例してひどくなるのではない。運動エネルギーはスピード(V)の2乗(V²)で増加する。つまりスピードの出し過ぎは「危険」ではなく「ずっとずっと危険」なのだ。複雑化した現代では肉食が気候変動につながるなど、思わぬ落とし穴が不安を増加させる。しかし冷静な理系の目こそ、いま必要なのだと静かに納得させられる。「緊急事態宣言解除」は「自粛しなくていい」とは違うのだ。

(早川書房 1300円+税)

「新型コロナ 19氏の意見」農文協編

 未曽有の危機をもたらした今回の新型コロナウイルス。そこで我々は何を考えるべきか。本書は哲学者や人類学者、ジャーナリストや探検家、農家、食生活研究家などに意見を求めた「われわれはどこにいて、どこへ向かうのか」(副題)の緊急提言。

 たとえば「マスクが必要」といえば買い占めに走る前に「自作する」。何でも流通まかせにせず自立するのは当たり前ではないか。また日本は「失敗から学ぶ」ことが決定的に下手なのではないか、との苦言もある。

 日・米・仏と各国の首脳が右往左往の迷走で醜態をさらす中、ドイツでは支持率低下といわれたメルケル首相が力強い演説で国民の動揺を抑えた。それはどのようにだったのか。さまざまな角度からの見方と議論はどれも今回の教訓として受け止めたいものだ。

(農文協 1000円+税)

「コロナショック・サバイバル」冨山和彦著

 今回のコロナウイルス騒動の前、経済に深刻な影響を与えた大事件といえばリーマン・ショック。あのとき米国ではGMやクライスラーが次々倒産し、日本でもJALが破産消滅寸前に追い込まれた。今回はJALに代わって業界トップになったANAが月間1000億円の現金流出にさらされてあえいでいる。

 本書はそんな厳しい経済の最前線に立つ産業再生のプロによるサバイバルの極意。著者によれば歴史上の大事件は大きなパラダイム変化の前触れになることが多いという。100年前のスペイン風邪は大恐慌に先立ち、90年代の日本ではバブル崩壊の後でグローバル化の大波が押し寄せた。そんな修羅場のさなかで企業トップは何をなすべきか。本書はその心得を力強く説く。

(文藝春秋 1200円+税)

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